ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ポーリン・ライリー「ペンギンハンドブック」

まずはこの映像を見てほしい、話はそれからだ。


長崎ペンギン水族館 相互羽繕いするケープペンギン達

尾のつけ根にある尾腺(尾脂腺)からの分泌物を、くちばしにつけて体中の羽毛に塗るのが羽づくろいである。
(中略)
2羽がたがいに羽づくろいすることを‟相互羽づくろい”allopeeningとよんでいる。しかしペンギン類の全種が‟相互羽づくろい”をするわけではない。

PPPの5人で言うとロイヤルペンギンとイワトビペンギンフンボルトペンギンは‟相互羽づくろい”をするが、コウテイペンギンとジェンツーペンギンはしない。

フムン。

ペンギン ハンドブック

ペンギン ハンドブック

現在の地球上に6属17種存在するペンギン類について、多数の写真やイラストとともにその生態を簡潔に記述した物。最近ペンギンづいているので読んでみたいや別に「けものフレンズ」に影響されたわけではあるがそれだけでもなくてその。

ペンギン可愛いなあ。可愛いだけじゃないけどなあ。

簡潔な記述だけれど内容は適切で、生息環境やそれぞれの種が抱える生存への脅威などについても十分言及されています。新生代には熱帯にまで生息地域を広げたペンギン類が、現代のそれに納まったのには人類との接触があったのだろうなと、現に人類と接触して生息数を激減させた種を見るにつけ思うところ。とはいえ、水中はともかく地上ではあれほど鈍重な行動しかできない生き物は、そうそう繁栄するものでもないのだろうなあ。コウテイペンギンがデカく居られるのも(いかに厳しい生存環境とはいえ)競争相手がほとんど存在しないからでしょうし。

恐ろしく非効率な繁殖方法など、ペンギンについてのあれこれを簡単に学べる良い本です。ただ可愛いだけの生き物ではないのさ。そしてこの本、簡潔な記述の割にはそれぞれの種ごとの求愛行動(わお)や交尾の状況(わぁお)などにボリュームを割いていて、これらから夏に向けて薄い本を作るのが大好きなフレンズのみんなー!

必読だよ!!!!!


土屋健「エディアカラ紀・カンブリア紀の生物」

古生物学の黒い本、最初の一冊。このあたりの知識はまーずいぶんアップデートしてなかったので興味深く読めました。最後に接したのはたしか美少女ゲームになったときか。「カンブリア爆発」みたいな単語も時々聞いてはいたけれど「エディアカラ紀」という言葉はたぶん今回はじめて接したかと思います。

この時代の生き物というのはやはり異質で、五つの目を持つオパビニアや「這い回る胃」と称されるハーペトガスターを見てクトルゥフだのラヴクラフト的だのというような要素で楽しんで読んでも良いのでしょう。しかしどれほど現生の生物と異なって見えるからとは言え、この時代の様々な生き物たちは確かに現代の生物系や環境と繋がっている存在なので、例えばただ1人(いや2人か)の人間が空想ででっちあげた「ドラえもん」よりは、バージェス頁岩のなかで化石になってたアノマロカリスの方がより人類に近しい存在だと言えるので美少女化するのも自然な成り行きなのかもしれない。いや待ってその理屈はなにかがおかしいよ。

一見すると異質に見えても、実は我々とは連続性がある存在なのだという意味では「狂気山脈」に登場する「古えのもの」と人類の関係に似ているのかも知れない。そういう意味ではこの時代の生物を「ラヴクラフト的」とするのも悪くないなと、まーそんなこと考える本でも無いんですけれど、そんなことを考えながら読んでいた。読んでいたら丁度世界最古の化石が発見なんてニュースが飛び込んできてこの分野もこの先どんどん書き加えられていくのでしょうね。

いまはまだ漠然としてる「原始生命の時代」も、この先もっと研究が進めば新しい(そして古い)紀が生まれてくるのかも知れない。それはきっと素晴らしいことなのです。

ジェイムズ・L・キャンビアス「ラグランジュ・ミッション」

 

ラグランジュ・ミッション (ハヤカワ文庫SF)

ラグランジュ・ミッション (ハヤカワ文庫SF)

 

カバーのあらすじに「迫真の近未来テクノスリラー!」とある。近未来テクノスリラーなんてとっくの昔に絶滅したジャンルだと思っていたので、未だにそんなのを書いてる人がいるのかと、そこは確かに驚いた。現代のスピードが速すぎてますます「近未来」を想像しにくくなっている昨今にあって、それはやっぱり珍しいことですね。

「近未来テクノスリラー」が全盛期(?)だったころは、概ね派手且つ陳腐な技術が先に立ってストーリーやキャラがいまいちな作品が多かったように思うので 正直あんまり期待しなかったんだけど…これは収穫で、ずいぶん楽しく読めました。

原題を「Corsair(海賊)」という。月から地球に送られるヘリウム3輸送ロケットを題材に宇宙海賊キャプテン・ブラックとアメリカ空軍エリザベス大尉の戦いを描くという、ストーリーだけ聞くと本をブン投げたくなるようなものなんだけど、地味でシリアスな宇宙機の戦いを地上からのリモート操作で機動させる、ドローンやUAV戦闘機の延長として見せている感じです。静謐な宇宙では秒速5メートル(!)程度でもっさり動くお話を、しかし地上の側ではヘリウム運搬ロケット強奪犯罪が、実は月面基地に対する大規模なテロ作戦へ変貌し…とまあいろいろ動く。アクションもある。ちなみ月への有人宇宙飛行はファルコンロケットが使用されていて、ファルコンの運用をSF小説で読んだのはたぶん初めてだなー。

VRインターフェイスやヘリウム3を用いた核融合技術(巻末解説でも触れているけど核融合に関しては背景設定に過ぎず、技術レベルがどれぐらいなのかは本編ではあまり説明されない。マクガフィンに近い)など未来技術はあるけれど、現代の社会と地続きな、これは確かに近未来テクノロジーを扱ったスリラーだな。「海賊絶対殺すウーマン」なエリザベス大尉のキャラがイカす(笑).45口径ジャイロジェット弾を入手してこっそり衛星に積み込もうとしたり、内之浦も顔負けなチープな設備で衛星動かしたり、「航空宇宙軍史」とか「はやぶさ」が好きな向きには受けそうな要素が結構あるぞ。

月面の作業ロボットがレゴリス避けに「宇宙服」を着ていたり(カタチは不明である)、地味ながら感心させられる描写も散見されます。FBIのドミニク捜査官やヨットで世界一周系女子大生ブロガーのアンとか、脇も楽しい。この作家の名前は覚えておいてもよいかも知れません…

土屋健「ジュラ紀の生物」

 

ジュラ紀の生物 (生物ミステリー(生物ミステリー プロ))

ジュラ紀の生物 (生物ミステリー(生物ミステリー プロ))

 

 というわけで技術評論社の古生物学の黒い本、時系列をてんで無視して好きなところから読んでいく。となるとやはりジュラ紀である。ジュラ紀最高。白亜紀の恐竜がドカスカ出てくるSF小説/映画にだって「ジュラシックパーク」と名付けられるぐらいに、ひとはジュラ紀に強く憧れるものなんである。

…やっぱアロサウルスですよ!アロサウルス最高!!ティラノサウルスより面長でシュッとしている頭骨、ティラノサウルスより大きい(バランスの)前肢、ティラノサウルスより一本多い前肢のツメ。どこをとってもティラノサウルスよりずっとカッチョエエ。幸か不幸かまだ羽毛恐竜の流れに飲み込まれてないところがいいよなーと再認識であります。いぜん頭頂部から背中にかけてワニのような「装甲」をもつ復元図を見たけれど、最近は流行りじゃないのかなー。

むろんアロサウルスだけの本ではないので始祖鳥(こんど上野にロンドン標本来ますねー)やワニや魚竜やいろんなものの知見をアップデートする。ブラキオサウルスって最近言わないのね。タミヤのプラモはあるけどね…

近代科学が発展していった19世紀に、ドイツやイギリスなど近代科学最先端の地で有力な標本が発見されたことは、偶然なのか必然なのか、それはあまり考えないほうが良いのかな?

ハーヴェイ・ジェイコブズ他「グラックの卵」

 

グラックの卵 (未来の文学)

グラックの卵 (未来の文学)

 

 前に読んだけど感想書いてなかったーと読み直したら実は読んでいなかった。という一冊。冒頭に収録されているネルスン・ボンド「見よ、かの巨鳥を」だけ読んでそのまま図書館の棚にそっと戻していたらしい(笑)

浅倉久志翻訳・編集による「英米のユーモアSF、その中でも翻訳紹介される機会の少ない中篇を主体にしたアンソロジー」で、要はバカSFアンソロです。こんなにスマートな装丁なのになwww

さすがに海外SF界でも巨星だったひとの眼鏡に叶った名品・珍品ばかりで面白いのよこれが。先に挙げた「見よ、かの巨鳥を!」は宇宙空間をデカい鳥が飛んでくる話だし、ジョン・ノヴォトニイ「バーボン湖」はアメリカの片田舎にバーボンで出来た湖があるってだけの話だし、ワン・アイデアで馬鹿馬鹿しくも、それでも楽しく笑える小品が多い。しかし一番ボリュームのあるジョン・スラデック「マスタースンと社員たち」がちっとも笑えなかったのはなんだ、俺が社会不適合者だからだろうか…

表題作「グラックの卵」はある大学教授が遺した幻の珍鳥の卵をめぐる、ドタバタ争奪戦と艶事ラブコメディが続く軽妙なタッチのアレなんだけど、オチが壮絶すぎる。

初読当時なぜ棚に戻してしまったのか俺の馬鹿馬鹿!!

米澤穂信「王とサーカス」

 

王とサーカス

王とサーカス

 

 う~~~~~~~~~~ん、判断するのが難しい作品です。「さよなら妖精」の大刀洗万智を主人公に据えた長編ミステリー。2001年にネパールで起きた王族殺害事件を舞台にしているけれど、あくまでそれは舞台であって太刀洗万智が出会う事件そのものは、王族殺害に直接かかわる訳ではない。事件解決も謎解きもささやかなものであって、殺人事件(そう、これは殺人事件を解決するミステリーなのだ)の「真実」にはあまり価値がない。例によって米澤節(?)で、明かされるべき真実は事件の謎解きのその先にあるのだけれど、ではそれが何だったのかと考えると、判断するのが難しいのです。

一言でいうと太刀洗万智が覚悟を決める話なのだけれど、その「覚悟」の在り方が、これを容易に是認して良いのだろうかと悩まされる。amzonの書評を見ると「著者本人のメディア(マスコミ)観についての是非」を問うような感想も散見されるし実際そういう読み方をされて当然の内容・ご時世だろうとも思うけれど、作品と著者は別だしなあとも思うのだ(とはいえ作品が著者の一部であることは言うまでもない)。

好きか嫌いかと言われれば好きなんだけど、世の中がこれを絶賛しているのが腑に落ちないのですってそれは嫌味な読み方だな…

土屋健「古第三紀・新第三紀・第四紀の生物」上下巻

 

 

 

 技術評論社「古生物ミステリー」シリーズ第9巻、10巻。新生代の生物とその進化についての解説。黒い装丁のこのシリーズ、前々から図書館で気にはなっていたのだけれど、巻数も多いし先カンブリア紀(なんて言い方自体、自分の知識が古いことの証だね)から始めるのは話が長いしなァ、などと思って手を出しかねてました。が、しかし先日恐鳥類についての記述があるぞとSAKさんにご教示いただき、ピンポイントで読んでもいいかなと手に取ってみた。なんだか銀英伝の10巻だけ読むひとみたいなキブン(笑)ちなみにSAKさんの「logical cypher scape」では古生物ミステリー全巻の内容が詳しく解説されているので、詳しく知りたい方はぜひそちらをご覧ください。自分はこのあと与太話しか書きません(警告)

d.hatena.ne.jp

さて、恐鳥類だ。何故急にこれに興味を持ったかというと、最近「恐竜は鳥に進化しますた」ってことはもうテレビのクイズ番組ですら取り上げるほど広まっていて、世の恐竜像はずいぶん変化しました。でもその割に世の鳥類像はあまり変わってないなあという気がして(気がするだけだ)、鳥類の進化と適応はいまどのように捉えられているのだろうかと、そういう疑問からです。

いわゆるディアトリマに代表される恐鳥類って以前は「恐竜が滅んだあと一時的に地上に進出し、哺乳類との生存競争に敗れた鳥類」みたいな認識をしていたけれど、恐竜がすなわち鳥であるのなら「恐竜から進化した後再び地上に戻り、哺乳類との生存競争に敗れた鳥類」ってことなのか、あるいは全然空になど羽ばたかず、地上に在り続けて恐竜から正常(?)に進化していったのかさあどっちだ。ぐらいの認識が本書を読む前のスタンス。

で、読んでみた。なるほど「ディアトリマ」ってあまり言わないのね最近は。ディアトリマあらため「ガストルニス」。ガストルニスさん、覚えましたし…(ちなみに私はトリ頭です。なんでも忘れます)。そのガストルニスが「『じつは植物食性ではないか』と指摘されている」という記述には心底驚かされましたよええ。あんなデカい鳥が地上をのそのそ歩いて(いや走ったかもしれないが)植物食ってなんだよ生存競争どころか自走するケンタッキー・フライド・チキンばりにエサ動物じゃねーかよそりゃ絶滅するよ…

幸い下巻に記述があった南アメリカ大陸の恐鳥類は未だ肉食性だと看做されているようで、なんというかな安心だな。やっぱりほら、「恐ろしき鳥類」でいてくれた方がその、いろいろと昂ぶる(笑)

また本書ではペンギン類について多くページが割かれていて、中生代の大量絶滅直後、新生代の初めにはもう水中生活に適応した「最古のペンギン」が生まれているとの由。これも非常に驚かされる。驚かされることだけれど、例えば鳥類の生態を「流体の中で三次元的に機動するライフスタイル」だと考えれば、地上を歩くより水中を泳いでいるほうが、空を飛ぶことには近いのかも知れないね。鳥類の大きな特徴である「酸素の薄い領域でも活発な活動ができる」点でも、空中と水中は似たようなものだと(かなり、乱暴に)言えるのかも知れない。

我々は「鳥は飛ぶもの」だという前提でダチョウやペンギンを「飛べない鳥」といってしまうけれど、本当は「飛ばない鳥」なのだろうな。現生はたまたま鳥類のうちで「飛べる鳥」が大きく繫栄した結果なのであって。

だってほら、羽毛恐竜が広く生息していたからと言って、なんでもかんでも空飛んでた訳じゃないしね。ティラノサウルスに羽が生えてる復元で、誰が空を飛ばすものか。羽毛というのも空を飛ぶためだけに生まれた器官でもないのだろうなー。

などと約体もつかないことを考えた。良い読書だった。

 

本書全体に関して、メインとなるのはやっぱり哺乳類の記述です。子供の頃このあたりの生き物は「たかしよいち」先生の児童向け書籍でずいぶん読んだものでした。デスモスチルスののり巻みたいな臼歯とか、タールピットから発見される様々な生物の化石とか、懐かしく思い出すことが多くて高士与市先生には感謝するところ大ですね…。収録されている化石、骨格標本の写真も面白いものが多く、特に下巻134ページのメガテリウムの写真がまあ楽しくて、全巻こういうノリなのかな?やはり読まねばなるまいね。

そしてこんど科博に行ったときは、新生代の生物化石をもっとちゃんと見直そうと考えるのであった。