ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

COCO「今日の早川さん 4」

 

今日の早川さん4〔限定版〕

今日の早川さん4〔限定版〕

 

 8年ぶりの単行本、ご祝儀的に(?)限定版をハヤカワオンラインで直買い。考えてみると電子書籍版には「謎の布切れ」なんて付かないもんなーと、思うところで。

でその、8年ぶりの単行本とはいえその間もいろんなところで目にしてきたキャラクターですから、むしろそんなに経ってたっけというほうが意外でありました。さりとてそれらの出張版では尺が足らずにかなりのボリュームを描きおろしての第4巻でありました。まあ、みんないろんなところがちょっとずつ変わってて、(作者も言ってたように)全体的に等身が伸びたり、述流ちゃんはずいぶん大人になったり、岩波さんの双子のお子さんも大きくんまってたりとかまあいろいろ。1巻の頃は2ちゃんねるの名無しネタも飛び交っていたのに、今や時代はSNSとアイコンだ。これもいずれ過去の文明になって行くんだろうなあ…

 

ショートストーリー仕立てになってる19世紀ロンドンの私立探偵話が楽しい。このノリを続けてくれてもいいと思うんですが、どうでしょうかね?「バスカービルの魔犬」ネタとかねー。

 

しかしこの「布」なにに使うかな?いや、バンダナなんだけどさ(笑)

大森望 日下三蔵編「年刊日本SF傑作選 プロジェクト:シャーロック」

 

 この本をちょうど読もうとしたときに横田順彌氏の訃報を受ける。その業績、後世に与えた影響は限りなく大きい日本SF界の巨星、ご冥福をお祈りします。今巻収録「東京タワーの潜水夫」が遺作ということになるのだろうなあ。これ自体はカミの「ルーフォック・オルモス」シリーズのオマージュというかパスティーシュで、元がホームズ物のパロディ(らしい、未読)で、そこにさらに皿を重ねるものだからそうとう妙な回転をする、ハチャハチャなSFではあった。ではそれが面白かったかと言われるとやー、どうもねーうーむという感じではあり。それに限らず今回はベテラン勢の作品がどうもいまいちというか単に古いというか、どうも合わなかった。その分若手の作品が面白くて小田雅久二の「髪禍」のグロテスクさ、松崎有理「」惑星Xの憂鬱」のほのぼの感、宮内悠介「ディレイ・エフェクト」の喪失から回復に至る流れ、とか、そういうところが良かったなあ。山内悠子「親水性について」はベテラン勢の作品の中ではこれがいちばんお気に入りです。独特で…独特である(2度)

 

そんな中で今回のベストを上げればこれはもう疑いようもなく八島游舷「天駆せよ法勝寺」です。例によってkindle単品売りしてるのね。

 

 「仏教SF」というのもこれが初めてじゃないだろうけど、単語のつくり方、ことばのうまさにとどまらず、小説としてストレートに面白かった。キワモノみたいな印象を受けるかもしれないけれど、極めて真っ当な娯楽作品でした。だからその、巻末解説で「(ある種の)バカSF」って言っちゃうのはどうかなと、思う訳だな。真面目なお話でしょうこれは。

ブッツァーティ「七人の使者・神を見た犬」

 

 ツイッターハッシュタグ「#今まで読んだ中で一番こわい短編小説」で「なにかが起こった」が紹介されていたので興味を覚えて読んでみた。なるほどこれはこわい作品で、視覚に訴える場面では聴覚が阻害され、聴覚に訴える結末では視覚が阻害される。不確かな情報に不安を煽られつつ疾駆する閉鎖空間の緊張など短い中に濃厚で豊潤な文章が構築されている。

とはいえツイートやまとめで散々内容を仄めかされていたので、まあそうだなあというか「怖」くは無かった(笑)イタリアでノンストップ超特急というと、ちょうどいまジョジョの5部アニメでやっているプロシュート兄貴グレイトフル・デッドのエピソードにたぶん響いているんだろうなあこれも。

他にも収録作品は粒ぞろいの傑作ばかりで、不安と不信を抱えつつ何か・どこかへ向かって突き進んでいくようなものがいくつか見受けられます。何かあるいはどこかというのは要するにタナトスであって、人がいきるということはつまり不確かな情報を基に未知の時間と空間を邁進していくようなものなんでしょうね。戦いの終着駅はどこだ。

「円盤が舞い降りた」はUFO、宇宙人に対する人文的な回答として大変ユニークな内容であるし、「竜退治」に出てくる竜は、これはもしかしたら文芸作品に登場したなかでも有数に無様で弱く、儚い存在なのかも知れない。これらは特記する必要があろう。そして「聖人たち」がなんかほんわかしていい話なのであった。なにしろ聖人だからなあ…

 

そうかきょうは成人の日だな(笑)

松田未来・※Kome「夜光雲のサリッサ 02」

 

夜光雲のサリッサ 2 (リュウコミックススペシャル)

夜光雲のサリッサ 2 (リュウコミックススペシャル)

 

 高高度怪獣戦闘機マンガ第2巻、表紙はMiG-31改「セマルグル」!平成31年改元を迎える年の1月発売コミックスとして実に目出度い(のか)。今回はロシアの「火球の子」ヴェラだけでなく中国にも新キャラが出てくるんだけれど、日米ロのタンデム運用とは違って三つ子が三機の機体(J-20だ!)にそれぞれ乗り、指揮官も単独で戦闘機に乗り込む運用だったのが面白い…だけでなく、精神同調できる三つ子が真っ赤な機体を操縦して「真紅威龍隊見参!!」ってパシフィック・リムかよッ!!などと思ったら「威龍」ってサプリメントの名前なのか。それは一体…

 

そしてタイトルにもある「サリッサ」が遂に登場、かなりトンデモな機体だけれど実在した試験機、計画機の延長線上にあるものだしレールガンも現実に戦力化が間近だしで、地に足の着いた飛行機ですね!

IOSSの設立や天翔体とのコンタクト?など作品の根幹に近づく描写もあるようで、今回一番驚いたのは急に忍の母親が出て来たことなんだけど、1巻見直したら親権放棄の同意書には父親の名前しかなかった。

どうやら救いは用意されているようで、それについては安心しました。

谷甲州「工作艦間宮の戦争」

工作艦間宮の戦争──新・航空宇宙軍史

工作艦間宮の戦争──新・航空宇宙軍史

 

 

新・航空宇宙軍史第2巻。前巻「コロンビア・ゼロ」(http://abogard.hatenadiary.jp/entry/20150922/p1)に引き続いて、第二次外惑星動乱のいくつかの局面を点描していく。何本かはSFマガジン掲載時に読んでいるのだけれど、一冊まとまった形で読んでみると、ここまでカタストロフに欠ける話が連続するのに不満というか不安を覚える。あまり良い感想が聞こえてこなかったのもむべなるかな、という感じだ。外宇宙調査艦を改装した特務艦イカロス42の航跡と戦闘が、いわば主軸となるのだろうけれどひたすら肩透かしを食わされるというかなんというか。

ストーリーよりは各キャラクターの思弁で進めるのは著者の本領に近いものではあるのだろうけど、一か所明らかに文意が取れないというかおかしな著述があって、これを校正できなかったのはなんだろうなあ、編集部の責任も小さくはなさそうだ。

新年一発目にやや残念な読後感で…残念ではある。

 

今年の一番について考える

い つ も の 。

 

今年は数年来計画してきたあることを実行できてよかった。大概自己満足なんだけど、自己が満足してるからそれでいいのだ(何)

 

・本

は、これはもう間違いなく原尞の「それまでの明日」です。ずいぶん待ったものねえ。それで、もうこれが最後になるんじゃないかなあという危惧を、かなり真剣に持たざるを得ない。次点でルーシャス・シェパードの「竜のグリオールに絵を描いた男」。竹書房はほんと最近よいSFを出してくれますね。ポプテピピックだけじゃねーのよ。

 

・映画

は、「若おかみは小学生!」と「ペンギン・ハイウェイ」が拮抗し過ぎる。あと見たのは「パシフィック・リム:アップライジング」と「ニンジャバットマン」ぐらいなんだけどなー。

展覧会や博物館関係はあまり行かなかったな。ムンク展も行けてないなー。CCさくら展とパトレイバー展はずっと混んでたんで躊躇。「世界を変えた書物」展はよかったけれど、これはこっちのほうには感想書かずにツイッターだけでまとめちゃったね。

 

・アニメ

は、今年は本当に良作ぞろいでした。「よりもい」から始まって「SSSS.GRIDMAN」まで各期作品、また一年かけてじっくり物語を語り継いだ(そして来年も続く)「新幹線変形ロボ シンカリオン」、20年ぶりの完全新作「カードキャプターさくら クリアカード編」などなど。プリキュアも15周年で話題多かったな今年は。新銀英伝や「ガンプラビルドダイバーズ」なんか普通に良い作品だったのに今思い出すまで結構埋もれていたぞ。それで「ゾンビランドサガ」はじめ見てないのも沢山あるからねえ、怖い時代だよな…

それで今年の一番は、たぶん世の大多数の人の間では埋もれてしまうのだろうけど「プラネット・ウィズ」です。これがまあグサグサ刺さった。当初予想もしなかったほど、最終回に向けての盛り上がりと「許す」というテーマが刺さりました。

今年は「許す」作品が多かったように思うのよね。若おかみやグリッドマンも「許す」作品だった。けれど、プラネット・ウィズが本当にド直球に「許す」とはどういうことなのか…を描いていて。それが良かった。許しましょう許してあげましょうじゃないんだよな。もっと主体的に主観的に自分で決めて自分で行動を起こすことなんだ。被害者がどうやって加害者を救うのか、加害者を救うべき理由はいったい何処に在るのか。

いまの時代に求められるわけですねと、思うところで。

 

・プラモ

はIV号人型重機です。これがキャビコの製品なんだかエムアイモルデなんだかそれともNZインダストリアルなのか、ひとつの製品が生まれるにはそれだけ様々な人の手が介在しているものなのですねとあらためて。クラウドファウンディングに参加し損ねたことをちょっと後悔しましたw 来年はこれを作りたいなーと思うのだけど、III号も出るらしいんでそっちを待ってみようかしら?

 

・あとは

去年「来年は大洗に行ってみようかな」で締めてるんだけど、今年実際行ってきました。「大洗・海の月間」での護衛艦公開イベント。あんこう祭りほど人出がすごいものではなかったけれど、むしろそれぐらいで十分か。その後シーサイドステーション(旧アウトレットモール)の建物一部解体しちゃったから、今年行けたのは運が良かったね。何のイベントも無い時にふらっと行ったらどんな感じなんだろうなあ、水族館行きたいんだけどね。

各務原の航空博物館や急に思い立って真鶴行ったり、夏ごろは結構無茶なムーブしてたなw

来年は浜松行ってみたいなあ。ヴァンパイア見たいんですよね、エアパークの。

 

 

土屋健「オルドビス紀・シルル紀の生物」

 

オルドビス紀・シルル紀の生物 (生物ミステリー (生物ミステリープロ))

オルドビス紀・シルル紀の生物 (生物ミステリー (生物ミステリープロ))

 

 ペルム紀を読もうかと思っていたけれど、気が変わってこちらを先に。この辺の年代は年表の中で「なんかそんな時代があるらしい」程度の認識しかなくて、前書きにも「さほど知名度の高い時代ではありません」とある。しかしながら読んでみれば、地味とはいえ現代までに繋がる地球環境の礎が着々と組み立てられていく時代であり、脊椎動物無脊椎動物も、これ以前の生物に比べればずっとわれわれに近しい存在だなーと、思わされること然り。

 

デボン紀を読んだ時(http://abogard.hatenadiary.jp/entry/2018/12/11/212740)と同様、三葉虫の多様さには目を見張るものがある。三葉虫というと小さくて平たいもの、なんならそこら辺の化石売り場にも普通に並んでいるような普通なイメージがあったけれど、それらは(考古学的な意味で)価値が低いからそこら中で見られるのであって、特徴的な形状や生息当時の生態を伝えてくれるような化石には、やはり目を見張るほどの特徴と多様性があるものですね。もっと仮面ライダー三葉虫怪人出してくれ。1号・2号ライダーのころのショッカー怪人ザンブロンゾぐらいしかいないじゃないか(知るか)

 

シルル紀のパートでこの頃からサソリが生まれていて、既に現在とほとんど変わらぬ形態をもっていた…と知ったのは大変に大きな驚きです。海サソリとも違っていて、しかし当初は海にいて、そして陸上へと歩み出していく。幾度もの大量絶滅の時期を経てなおサソリは現代に繁栄し、ビッグシックスの只中でさえ特に絶滅の危機は叫ばれない。強いなあサソリ。ちょっと見る目が変わりました(笑)