ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

エドワード・ドルニック「ムンクを追え!」

ムンクを追え! 『叫び』奪還に賭けたロンドン警視庁美術特捜班の100日

ムンクを追え! 『叫び』奪還に賭けたロンドン警視庁美術特捜班の100日

海外に旅行した友人達の話によると、外国の美術館や博物館は非常に警備がゆるいそうである。ルーブル美術館でガラスケースに収容されていたのは「モナリザ」ぐらいで、カイロの博物館では歴史の教科書に写真が載ってる「ネフェルティティ女王像」が剥き身で手の届くところに置かれているらしい。外国の人たちは倫理道徳感が高く、美術品盗難など起きない・・・訳ではなく、むしろ頻発していて美術品のいわゆる闇取引市場は麻薬・武器についで第3位だそうだ*1
本書は1994年2月にノルウェー国立美術館より何者かによって盗みだされたエドワルド・ムンクの絵画「叫び」が3ヵ月後に無事司直の手によって取り戻されるまでのドキュメンタリー*2であり、登場するのはすべて実在の人物である。

「事実は小説より木梨憲武」という言葉があるが*3まったくもってそれを地で行く面白さ。ロンドン警視庁「美術特捜班」所属の囮捜査官チャーリー・ヒルのパーソナリティはそこら辺のクライムノベル顔負けにキャラ立ちしている。非常に興味深かったのは現実に起きている美術品窃盗/強盗事件の殆どすべては、鉄壁の警備網をほこる要塞のような場所から芸術的手腕を持った天才犯罪者が盗み出すのではなく、怠慢な所有者から極めて乱暴な手法によっていとも簡単にかっぱらわれているという間抜けな事実である。
この「叫び」も本来三階に展示されていたものが「来館者に便宜を図って」二階の、それも窓辺に移動され、なんの機械的警報装置に接続されないまま「二人の男と一本のハシゴによる、極めて組織的な犯行」*4によってあっさりと盗み出された。

解決に乗り出したのが上述ロンドン警視庁の奪還チームなのだが、よくある話でノルウェーの警察当局と連絡が円滑に行っていない。いやホントにありがちな話なのだが・・・

だからといって囮捜査官と故買屋の最初の接触に使われたホテルが当日「北欧麻薬捜査官年次総会」の会場に使われていてそこいら中私服の警官だらけといういささか笑える状況は、頼まれたって作り出せないシチュエーションだろう。ありえなーい!でも実話。

この「叫び」盗難事件以外にも、いくつかの著名な絵画の盗難事件について色々記されてあり、大変面白かった。世の中知らない世界はまだまだたくさんあるものだ。

*1:金額なのか件数なのかは不明

*2:ムンク「叫び」は複数存在し、2004年には同じくノルウェームンク美術館から白昼堂々強奪されている。監視カメラの映像が世界中に公開されたその事件とは別。

*3:ない。

*4:皮肉