ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ジョン・トーランド「バルジ大作戦」

バルジ大作戦 (上) (ハヤカワ文庫 NF (18))

バルジ大作戦 (上) (ハヤカワ文庫 NF (18))

バルジ大作戦 下 (ハヤカワ文庫 NF 19)

バルジ大作戦 下 (ハヤカワ文庫 NF 19)

こころ暖まるクリスマスストーリー。いやウソだが。

第二次世界大戦末期、1944年12月16日〜1945年1月23日に起きたドイツ軍の反攻作戦「ラインの守り作戦」、別名「突出部(バルジ)の戦い」の記録。ドキュメンタリーではあるが記述は極めて散文的で、小説として読むに耐えうる。それは近年の研究書には欠ける要素で、大衆的エンターテインメント性がもう少しあっても良いんだろうなぁとは常々思っていることだが。

この本が極めて鮮烈なイメージで書かれているのは、やはり当時実際その場にいた人々への聞き取り、実態に裏付けられているからだろうと思う。大戦闘の只中で、ひとが何を思い何をしたか。公式記録の分析だけではこうは行くまい。

個人、というものに大きくスポットが当てられる様はまるで「グランドホテル」形式の群像劇を見るかのようだ。連合軍、ドイツ軍、民間人。将軍、兵卒。勝者、敗者。生者、死者。

大きな流れの中で、ちっぽけな人々が生きている。そんな感じだろうか。

こころ暖まる、というのはあながち嘘でもなくて「事実は小説より奇なり」を地でいくようなハートフルなエピソードがいくつも描かれている。自分自身は夜間、戦友の遺体を回収しに来たドイツ軍空挺隊員がアメリカ軍のパトロール隊と出会った話や、崩壊するサン・ヴィット市から脱出するシャーマン戦車の車上で合唱(二カ国語)された「きよしこの夜」のくだりが好きだ。あと捕虜輸送列車と不発弾とか。

そんな状況だからこそ、現れ出でるものがある。そんな状況でなくても、本当は常にあるものだけれども。コントラストによってはっきりと目に見えるもの…

それは「人間性」である。

クリスマスおめでとう。