ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

P.W.シンガー「子ども兵の戦争」

子ども兵の戦争

子ども兵の戦争

以前読んだ「戦争請負会社」*1同著者によるもの。民間軍事企業とチャイルドソルジャー、一見するとまったく別のものに感じられるがどちらもプロフェッショナルな戦闘要員であることに変わりはない。正直読んで、気が滅入った。

本書を読み解くキーワードとして想定していたのは「AK突撃銃」や「非対称戦」などの事柄だったのだが、実際読んでみて激しく感じ取れるのは「総力戦」ということだ。嘗ては国家間での大規模戦争に生じた現象であったのだけれど、現代ではミニマムな組織がミニマムな範囲で「総力戦」を敢行し、そのような状況下では子ども兵士というものは非常にコストが安くメリットが大きく、人口増加の一途をたどる世界*2ではリソースとしてほぼ無限である。

いわゆるホワイトバンド運動では「3秒に一人の割合で子どもの命が奪われている」と説く。では何秒に一人の割合で子どもは命を奪っていくのだろう。

少年兵士を最前線に投入した事例は、容易にいくつか上げることが出来る。ナチス・ドイツの国民突撃隊(に於けるヒトラー・ユーゲント部隊)、大日本帝国の鉄血謹皇隊、会津藩兵白虎隊などなど。皆どれも敗北寸前の政体がその動員基盤さえ破綻していた為の特設部隊であった。故に戦争は少年兵士の動員以降急速に終結し、彼らが前線に勤務した時期は短い。
が、現代の子ども兵士はほぼ常設の戦闘部隊であり、その母集団は疲弊こそすれ敗北寸前という訳ではない。闘争に終わりは見えず、子ども兵士(それは少年だけではなく少女も含むものなのだ)が動員を解除される日も見えない。

多くの場合子ども兵は組織的な拉致・誘拐によって強制的に戦闘集団に組み込まれる。それは悲劇であり、子ども達は被害者である。しかしながらやはり多くの場合子ども兵は志願によって自発的に戦闘集団に加盟する。それはより悲劇的であり、子ども達はより被害者である。

世界の多くの場所で、それはインターネットも自由な出版物もないところで、将来になんら希望を持てず、戦闘集団に志願し兵士の一員となる以外に他の選択肢を持てない子どもが大勢いるという事実は、悲劇である。

現在、国連の場やNGOを中心に子ども兵士を無くす運動が行われ、憲章が定められている。しかしながら、そもそも子どもを兵士に仕立て上げようとする組織は国際社会のモラルなぞ無関係に行動しているので現在ではなんらの効力をも発揮していない。

そしてそのような組織は、決してゲリラ・テロリストなどの不正規戦闘集団だけではなく、正規の国家による、正規の軍事組織の中にも存在するのだ。

この問題に、おそらく希望はない。著者はいくつかの提言を説いているが実効性は甚だ心もとないと自分は思う。なぜなら子どもを兵士にすることは恐ろしいほどに「効率的」だからだ。これを回避するには更に低コストで効率的な兵士を生み出すか、あるいは各々の戦闘集団が非効率的な戦闘要員を保持できる程度に裕福になるかの二択しかないと思われるが、

そんなことは想像もつかない事象である。

*1:http://d.hatena.ne.jp/abogard/20050821

*2:少子化問題で悩んでいるのは先進国ばかりだ