- 作者: レイモンド・チャンドラー,稲葉明雄
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1965/06
- メディア: 文庫
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短編集。マーロウもの2編と単独もの2編を所載*1。マーロウものは一人称、他は3人称で記述されていてちょっと興味深い。その所為ではなかろうと思うが個人的にはノン・シリーズの「黄色のキング」というのが一番面白かった*2実は巻末に収録されている「簡単な殺人法」という小論が読みたくて購入した。一体チャンドラーが何を描こうとしてこのような探偵小説(ハメット登場後の時代であっても、当然ハードボイルドなる単語は用いられないし、本人も用いない)を創造したのかそこが知りたかったからだ。
チャンドラーが目指した物は実感的、実際的、リアリティのある探偵小説であって本論の主旨の半分ぐらいはいわゆる黄金期の本格派批判である(黄金期の本格派が何を描こうとしていたかはセイヤーズの「探偵小説論」*3に詳しい)変な話チャンドラーは本格派の「名作」を俎上に乗せてその現実感覚の欠落を批判しているのだけれど、むしろその非現実的なものこそが読書としては楽しいんだなと再認識した(苦笑)とはいえ余りに現実(現実性)から乖離している物も、推理小説としては面白くないのだろうけれど。
マーロウのキャッチコピーとしてしばしば用いられる「卑しい街を行く高貴な騎士」的な文言はこの小論で言及されている。確かに我々を取り巻く世界は卑しい。そして我々自身もまた卑しい者である。どうせならエンターテインメントでは卑しからざる人物が活躍してほしいものでその点本格派の名探偵だろうがハードボイルド私立探偵だろうが少なからず非現実的な存在ではあるのだ。
ある一つのグル−プ内に複数の派閥が並立していて、互いがこの手の「作品論」をブチ上げ、尚かつどれをとってもそれなりに読める論旨を展開出来るのって推理小説の強みだろうな、とは思う。