ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ルイ=フェルディナン・セリーヌ「夜の果てへの旅」

夜の果てへの旅〈上〉 (中公文庫)

夜の果てへの旅〈上〉 (中公文庫)

夜の果てへの旅〈下〉 (中公文庫)

夜の果てへの旅〈下〉 (中公文庫)

「失われた世代」と呼ばれる人たちが嘗ては世の中に存在し、一般的には第一次世界大戦で近代文明の最先端に引きずり回され結果その反動で推理小説書いたり猟銃自殺したり強制収容所を雨後の竹の子のようにおっ立てたりして20世紀社会をヴァラエティ豊かなものにしてくれた連中と解釈されています。
ところで100年近く前の文明最先端というのは21世紀の我々から見りゃお笑い番組みてーなものでして。飛行機は木で出来てましたし戦車は銭湯のボイラーみたいで、毒ガスに至っては理科系の大学生が自室で合成できるようなシロモノであります。
そんなものでも世代共通的なトラウマを舐め回せるほどインパクトを与えたのですからして、只今現在の近代文明最先端が人間を引きずり回したらやっぱり皆さん推理小説書いたり猟銃自殺したり雨後の竹の子のように強制収容所をおっ立てたりするんでしょうか?

いやあ、そうは思わない。例えどれほどヒドイ目に遇ったところで世の中が投げかける言葉はこんなもんだろう。

「よくある話だ。それがどうした」

とかね。

「夜の果てへの旅」は刊行当初ひどいセンセーションを巻き起こしたとかで、結果セリーヌ君は国を挙げて村八分にされたり第二次大戦後は対独協力容疑で牢屋にぶち込まれたり死んでも葬式断られたりしたわけなのです。

「彼はヒットラーがかつて持った以上のダイナマイトをうちに蔵している。これは永遠の憎悪だ−全人類に対する憎悪だ」*1

などと言われてワクテカしない訳には行かない!「生き残った者達は何が出来るだろう」って推理小説書いてる場合じゃねーZE!!

で、読んだですよ。

前線に行き、後方に帰り、植民地に出向き、新大陸に渡り、都市に戻り、郊外に移り、その全ての場所と時間に於いて悉く個人と社会と世界の醜さ狡猾さを見て…


「よくある話だ。それがどうした」

以上のことが思い浮かばない(藁

何処までも旅して例え夜の果てにたどり着いたとしても、やっぱり明日は明るい日と書くのよ的に朝はやってくるもので、このメガネに絡みついた蜘蛛の巣みたいな何物かをなんとか片付けてしまわない限りは、それはもう何処にでもいる通り一遍の下卑たシニシズム以外の存在には成り得ませんわな。

セリーヌの墓碑にはただ一言「否(non)」と記されているそうだが自分としては「是(oui)」とでも言ってやりたいものだ。先生、人類はあれから随分と慣れっこになっちまったのですよ。

*1:ヘンリー・ミラーの評、だそうな