ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ジェフ・ロヴィン「怪物の事典」

怪物の事典

怪物の事典

ホラーに限らず、SF・ファンタジーなども当然含まれる。

なんとなく図書館で手にとって見たら面白そうだったので。神話伝説から小説映画、TVやコミックに至るまで幅広いジャンルに渡って登場した怪物の事典。この手の本切り口はいろいろあると思うが基本的にアメリカ文化で受容されているモンスターが対象なようでギリシャ神話やヨーロッパの怪物はあれどオリエンタルなものは少ない。アメリカのモンスター文化が主体なので神話伝説よりもむしろ映画TVコミックの割合が大変多く、そのほとんどはいわゆる「B級映画」モンスターにもなかなか引っかからないような聞いたことも無い映画や聞いたことも無いTVや聞いたことも無いコミックからわんさか大出演まさに百鬼!まさに夜行!!うはwたまらんwww

すべての項目で登場作品の簡単なあらすじ等が掲載されているのでとっても親切です。世の中聞いたことも無いような話に溢れ、そして多くは人知れず消えていく…まさに失われた現代の秘密を解き明かす魔道書のような本だなw

子供の頃、怪獣図鑑なんかでこの手の洋物怪獣は小さなスチール写真とかで目にし、僅かな解説文から想像をたくましくしたものである。長じてそれらを実際にフィルム上で目にした時の感激たるや曰く筆舌に尽くしがたい。なにしろ「金星人地球を征服す」見たときにゃ笑いが止まらなくて感想どころの話じゃないのだ。

この素晴らしい怪物を「金星ガニ」と命名したのは大伴昌司なのだそうだけれど、これが激怒したインディアンのチムニーみたいな形をしているのはヒロインの女優より背丈を高くするために急遽円錐型の構造物を付け足したためで、当初はもっと平たい―まさしくカニのような―着ぐるみ*1だったのだと初めて知りました。いやあ勉強になるなあ。

この本面白いところはそもそも簡潔な筆致で書かれた英文をSFやホラー、ファンタジーなどに全く興味が無い人が翻訳しているので日本の特撮関係書籍で散見される筆者の過剰な思い入れに辟易するようなことが全く無い。東宝大映など日本の怪獣映画も項目があるのでアメリカ人の目で見た「海底軍艦」の記述とか珍しいものが読める*2。またその平滑な文章で突っ込むべきところは突っ込んでいるので適時笑ってしまう事典にはなっている。

そして子供の頃は想像に留まっていたことを、ネット社会の現代ではすぐに検索できる。惜しむらくはこの本図版が少なめなのだが*3いやはや少しも問題にならずにジェフ・ロヴィン曰くところの「人間に襲いかかったモンスターの中でももっとも独創的で恐ろしいものの一つ」であるクロノス(kronos)と「映画史上もっとも嘘くさいモンスターだと言っても過言ではない」巨大な爪(The Giant Claw)のふたつを動画で紹介できるってなんと便利な!


kronos

The Giant Claw

むはwすげー見てえww


ちょっと真面目な話をすると、こういうものを読んでいると「○○は××のパクリ」みたいな話が非常に空しく思われる。人の世の創造物は決して始点のある系統樹などではなく相互に影響する水上の波紋のような、そんな関係にあるんじゃないかな。それは神話伝説の時代からネット社会の現代まで変わらず共鳴し共振し続ける事なのではないかとまあ、そんなことを考えた上で

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読み直していて気がついたが原著では(おそらく)アルファベット順であろう各項目が微妙に五十音順になっていない。「金星のロボット」の次が「ギャオス」ってどうゆう並びよ???

*1:と言うか金星ガニって「大道具」じゃないかと思う

*2:とは言え相当濃い人ではあるようで「恐竜・怪鳥の伝説」なんてのまで項目がある。マニアめ!

*3:項目数を考えれば当然の帰結である