ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

オーガスト・ダーレス編「漆黒の霊魂」

漆黒の霊魂 (ダーク・ファンタジー・コレクション)

漆黒の霊魂 (ダーク・ファンタジー・コレクション)

てっきりダーレスの非クトゥルー作品集かと思ったら当人が編んだアンソロジーだったんで少々凹む(苦笑)。表題の作品があるわけでもなくてどうやらこの本アーカムハウスが出してたごくごく普通のホラー・アンソロジーらしい。ひょっとしたらウィアード・テールズ同窓会、みたいな意図があるのかも知れないがよくわからない。序文を見る限り刊行当時*1既にクラシカルとされるような作品を集めたようにも読める。

ダーレス本人が別名で書いた作品などもあり、いろいろ興味がそそられるものがいくつもあるが、一本挙げるならばメアリ・エリザベス・カウンセルマン「ハーグレイヴの前小口」が良かった。ビブロマニアを題材にした因果応報物でオチはドストエフスキーときたらベタ過ぎにも程があるwけれど、お約束や定型っていうのもホラーにはつき物(憑きもの?)とか…

それとラヴクラフト+ダーレス共著「魔女の谷」が入ってて、これ日本だと「ク・リトル・リトル神話集」*2で読めた一本なのだけれども初出はここなのかな?ともあれクトゥルー神話作品としてみるとどってことない(失礼!)創作短編が一般のホラー小説群の中にぽんと投げ込まれると何故か隠秘学度が増すような気が、ちょっとだけする。

 編集者は話し終えるとアーカムミスカトニック大学図書館員宛てにメモを書いて、それを私に渡した。「これを渡して、あの本を見せてもらってくれ。何かがわかるかもしれない」彼は肩をすくめた。「だがわからんかもしれないな。若い世代の人たちにとって世の中には他にも刺激がいっぱいあるだろうから」

60年代ってクトゥルー物がそんなに読まれまた書かれたりはしていないだろう、と思われる時代で、そういうことを考えると含蓄に富んだ文章かな、などと思った。「ク・リトル・リトル神話集」の広田耕三訳文だとそんな印象は皆無で、まあその差も含めて収穫ではある。