ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

マーティン・J・ドアティ「図説 世界戦車大全」

図説 世界戦車大全

図説 世界戦車大全

あらかじめお断りしておきますが、私はこの本を誰にもまったく少しもオススメできません。


著者が「図説 世界の『最悪』兵器大全」を書いたヤツだと聞けば納得される方も多かろうとは思います。いい加減なデータに基づく偏向的な解説は読んでいてあまり気分の良いものではなく、年代・国別ごとに挙げられている代表的な戦車に記された「長所」と「弱点」はあまりに的外れです。

II号戦車の弱点が「向いていない役割を強要された」とあるのは、それは弱点じゃないだろう。V号戦車」と「パンター」がそれぞれ別個に解説されててしかもスペックが微妙に違うのはなにかの冗談ですか?

また著者だけの責任じゃあるまいなと思うのはこの本46ページに「1930年代に開発された日本軍の九五式軽戦車」同じく78ページに「縦列で進むイタリア軍のL6/40軽戦車」とキャプションつけて写真が掲載されているのですが、それがどちらも日本軍の八九式中戦車だっていうのはこれ監訳者ナニやってんの?って粗い仕事内容で、正直軍事書籍の分野では老舗の原書房がこんなにしょーもない本出しているとはガックリですわ。

など挙げていけばキリが無いくらい非難することばかりな一冊です。中身も正直全部は読んでいない。それでも図書館でみかけてただ一箇所これはモノスゴイモノを目にしてしまったぜ!とゆーぐらいおどろく箇所があったので以下引用。陸上自衛隊90式戦車についての説明。

日本の戦車は全体にかなり「西寄り」で、90式戦車はドイツのラインメタル社のものをライセンスした120mm砲を搭載する。M1エイブラムスに酷似する点も見られる。


自動装填装置についてまったく触れられてないことはともかくとして


「西寄り」ってなんだよ。俺たち西側じゃねーのかよ。


アングロサクソンって本当に度し難いですね(´・ω・`)

日本の戦車についての知識が誤ってるのはそれだけ日本の――特に現代の日本の――戦車が実戦に投入されていないことの証かも知れないのですが、まーもっともレオパルド2の「弱点」を「型式が多すぎる」なんて書いちゃうような本なので、そもそも著者の見識を疑わざるを得ない。どう考えてもそれは弱点じゃない。

ついでに言うとルクレールの「長所」に「140mm砲と交換可能」って書いてあんだけど、そんなん聞いたこともネーヨ。


<追記>

普段だったらこのような書籍に対する批判的内容の感想は挙げないようにしているのですが、今回は特別ということでご容赦下さい。あえてそれをやろうと思ったのは、この本のように一冊で全部まかなうような内容の物であればこそ、年少者や入門者が手に取りやすく、且つ内容を信じてしまいがちだろうと感じたからです。中学生の自分であれば、絶対にこの本の記述を真に受けたでしょう。そういうことは、出来れば避けたいよな…と、思った次第で。


何事も、どんなジャンルでもそうだと思うのですが、本を一冊読んだからと言ってなんでもかんでも全部まかなえるようなことはありません。沢山本を読んで様々な考え方や著述を目にして、その上で自分自身の在り方を創り上げられるような、そういうものに僕はなりたい。ひともまた、そう在ってほしい。

この本の翻訳編集出版流通に関わった全ての人に申し訳ないのですが、これはひどい本です。