ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

オーガスト・ダーレス「ソーラー・ポンズの事件簿」

怪奇小説を書けばラヴクラフトのパクリばかりなダーレスが「探偵小説を書けばコナン・ドイルのパクリばかりです」とそのむかし後輩のイワタくん*1から聞いたことがあって、先日十数年ぶりにそのことを思い出して市立図書館の書庫から別に忌まわしくもなく借り出してきた一冊。

主に1920年代のイギリスを舞台にロンドン、ベーカー街ならぬプレイド街7番地Bに下宿する名探偵ソーラー・ポンズの活躍ぶりを彼の助手である同居人パーカー医師の記録から選りすぐって下宿のおかみはミセス・ジョンソンで兄はバンクロフトであーもーいちいち書かないがファッションスタイルも見た目も原典まんまでいつのまにかパーカーは結婚して別居してるしでとにかく、全部そっくりです。ディオゲネス・クラブに至ってはそのままの名前で出てくる*2。唯一コナン・ドイルシャーロック・ホームズと決定的に違うところを挙げれば――



これ、つまんねーです(´・ω・`)


長短あわせて70編(!)あるソーラー・ポンズものの中から本書では短編13本を収録。創元推理文庫の「シャーロック・ホームズのライヴァルたち」シリーズの一冊なんだけど、なんだけど…実際のところダーレスは至極真面目にホームズ風味の探偵小説を書いている。書いているだけに瑕疵ばかりが目に付くような…謎めいた事件が持ち込まれいろいろあって結局は名探偵の推理が合理的な解決を導く。けれど、それだけなんだな。個々の作品はどっかホームズで読んだような話ばかりで生粋のシャーロキアンなら元ネタを直ちに指摘できそうな気もするし、そういう雑な印象を払拭するほどの何か特色や個性といったものがまるでない。唯一「消えた住人」で会話の中に「ダンウイッチ公爵の息子」や「オカルト的な短篇小説やセンセーショナルな新聞記事を書いていた作家ハワード・ヘリオット」なんて名前が出てきてプークスクスするぐらいか。

なんでそんなものが出来上がったのかといえば結局はラヴクラフトと同じく「ドイルの大ファンだったから」に尽きるらしい。どちらの真似も出来るなら、どちらも混ぜてなにか新しいものを生み出せたのでは…と思うのは多分早計で、本人は自分が好きな物をただ好きなように書くこと以外、特に思い切って成し遂げるような気持ちはなかったんだろう。十九歳でホームズもの全部読み終えたんでドイルにファンレター出して「もう続きは書かないんですか?」「うん書かないよ」と返事もらったらよし続きは俺が書こうと翌年には書き始めたとかで


すこしはこー、なにか思うところは無いのか。まあ実際に刊行されたのはもっと後の話なので、間は置いているらしいんだが。

ところで、新編真クリ7巻で「シャフト・ナンバー247」の作者、イギリス在住のB・コッパーの紹介文に「最近コパーは作品に鹿打ち帽とインバネスをもちこみ、ロンドンの探偵ソーラー・ポンズを主人公とする新しい冒険シリーズを創作した」って書いてあるのはどういうわけなんだぜ?*3

*1:誰だよ

*2:ただし、クラブの雰囲気はまるで異なる

*3:ダーレスの別名義なのかと思うけど、東雅夫の「クトゥルー辞典」でも別人扱いなんだぜ