ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ディヴィッド・ベニオフ「卵をめぐる祖父の戦争」

卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1838)

卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1838)

ハヤカワポケミスの装丁が新しくなった第一弾の作品。うん、こりゃおもしろい。

現代に生きるアメリカ作家である著者自身がフロリダに引退した祖父から聞いた話をベースに…という体裁を取った、しかし完全なるフィクション。1942年、ナチスドイツによる包囲下のレニングラードで主人公レフはひょんなことから脱走兵のコーリャを相棒として一週間以内に卵1ダースを手に入れて秘密警察大佐の娘の結婚式に届けるという、無理難題を強いられるが…といった展開で実はミステリー小説では無い(笑)軍事的背景をベースにしたロードノベル風の冒険小説で、例え第二次世界大戦当時のソ連が舞台とはいえ現代アメリカ作家が描くエンターテインメント作品なので、割と軽めで、楽しい小説です。

ユーモアとウイットに富んだコーリャのキャラクターが、この作品の方向性を形作っているんだろうな。レニングラードの人食いとかソ連の地雷犬、ドイツ軍のアインザッツコマンド――ご存じない方に申し添えると「特別行動部隊」のことで、ちょっと特別な行動をします――など、いかにも東部戦線な小道具が次々に出てきて実際暗い話なんだけど、この自称文学評論家と詩人の父親を粛清で失った主人公との会話劇は、必要以上に暗い影を与えない。

凄腕の美少女(か?)狙撃手とか実に映画的な話で、映画化したらジュード・ロウの「スターリングラード」より面白そうだナーなんて思いながら読んでいたら、あとがきによると著者ベニオフは映画畑のひとだそうで納得。冒頭確かにそんなことも書いてあったね。

1ダースの卵はあくまでマクガフィン的小道具だと思っていると、最後の最後で実に印象的に登場し、読み終えて本を閉じて表紙画を見なおすとあー成程と、思わされる。良い装丁ですね…


ところでぼくにも、この浅ましい人生を果てしなく繰り返す事が運命づけられているとしたら人生を繰り返すたびに舞い戻りたくなる瞬間ぐらいはあるのだぜ。


しかし、実は 「攻防500日」 未読なんですよ自分。

正しくは「攻防900日」でした。レニングラード市民の皆様に心から謝罪致します m(_ _)m