ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ロバート・C・ミケシュ「破壊された日本軍機」

破壊された日本軍機―TAIU(米航空技術情報部隊)の記録・写真集

破壊された日本軍機―TAIU(米航空技術情報部隊)の記録・写真集

アメリカ軍によって撮影された、終戦直後に破棄・破壊された状態での日本陸海軍航空機の記録という、ちょっと珍しいタイプの写真集。オリジナルとなったのは日本進駐部隊に所属するTAIU(米航空技術情報部)の一員であったジェイムズ・P・ギャラガー氏が個人的に?撮影・編集出版した書籍をもとにスミソニアン博物館の主席学芸員であるロバート・C・ミケシュ氏が公文書関係等から写真を追加、解説文を執筆したものであり、確かな記述と一定の敬意を以て製作された内容は読んでいて心地のよいものです。

8割方は飛行不能なスクラップとなった機体の写真であり、部品を失い塗装を剥がれたその姿には複雑な感慨を抱く人もいるのでは…と思うけれど、やはりこれは事実であり、敗北と占領の実相から浮かび上がってくるのは「本土決戦やんなくてよかったなあ」という安堵感といったら変かな、まあとにかくそういう感想です。日本軍の航空技術を調査するため、全国から状態のよい機体を見つけて保全し米国本土に移送していたTAIUの活動内容についても記述があって、いろいろ興味深いです。当初日本人パイロットによる移動には反乱を警戒した米軍戦闘機の監視が付き、しかしそれも杞憂であろうと中止され、すると突然移送中の機体が消息を絶ち…とか、なんだか漫画みたいな話が本当にあったりする。総じて終戦直後の日本社会には敗北を認め、受け入れる秩序が確固として在り続けたのは、それは多分もっと誇って良いことなんだろうと思う。その姿勢が日本の安定した復興をもたらしたのは間違いないと、現在の世界情勢を見るにつけても。

それはともかくやっぱり貴重なのは写真です。陸海軍新旧取り混ぜていろいろあり、局地戦闘機雷電」、排気タービン付きの三二型の厚木に実戦配備されていた機体や、ただ一機だけ製作された試作高高度戦闘機「キ−87」*1が調布基地に駐機されていたりとかで、自分が歩いたこともあるあのあたりが昔日は歴史的な位置を占めていたんだなーとか思ったりです…

戦後中国や東南アジアで接収され、現地の空軍力として再使用された機体も一章を設けて解説されています。一式戦「隼」のフランス軍仕様であるとか中国国民党軍マーキングの機体だとか、プラモデルで存在は知っていても実態はなかなかわからなかった飛行機についてもいろいろ知れて満足満足。そして巻末には現存する日本軍機の種類・機数と保管先を記した詳細なリストが掲載されています。こういうものは本当は日本人が作るべきではないだろうかと思わなくもないですが、復元や保存に関しては外国の方が遥かに理解も信頼もある、というのが実情でしょうね。リストを見ていたら世界各地に結構「人間爆弾」の「桜花」が保存されていて、旧日本軍航空のある種のシンボルになっているのだろうな…

その「桜花」が日本では戦後60年代まで米空軍ジョンソン基地(現、航空自衛隊入間基地)の看板代わりに英語書かれて使われてた写真は、確かにショッキングではあった。幸いこの桜花(靖国神社のレプリカとは違い、唯一日本に現存するオリジナル)は無事日本に返還され、現在では適切に再塗装され室内に保存されている。たぶん小学生の時に初めて目にした、本物の大戦機だろうなあこれ…*2

*1:「本機はそばにある一般的な大きさの機体と比較すると、非情に大きな機体である」とキャプションがついた写真で隣に並んでるのがキ−115「剣」で全然一般的じゃネーヨってのはツッコミ入れていいですよね?

*2:上野の科学博物館にあるゼロ戦じゃねーのってハナシもあるのだが、シメとしては桜花の方がセンチメンタルなんである。記憶は塗り替えられる。