ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

スコット・ウェスターフェルド「リヴァイアサン」

リヴァイアサン クジラと蒸気機関 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

リヴァイアサン クジラと蒸気機関 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

これは面白かった!読んでいてニヤニヤニヤニヤしてくるのが自分でもわかる、大変良く出来た王道的な冒険活劇です。遺伝子を操作し様々な改良生物を文明の主軸に据える「ダーウィニスト」と進歩した蒸気機関を主体に国家を運営する「クランカー」の二極に分かれた国家群によるスチームパンク・ヨーロッパ社会を舞台に第一次世界大戦を始めるお話。

主人公の二人、アレックの方はオーストリア=ハンガリー帝国の大公公子で皇位継承権を持ちながら逃亡する貴種流離、もう一方のデリンは性別を隠して海軍航空隊に志願する男装女子と、物語の定型をきっちり踏んだ手堅い作りか。どちらも親(父親)を喪い、どちらにもマスターとなる人物が配され、どちらも自分の属する側の技術には精通している。対称的な設定は構造を解析すれば面白そうではあります。アレックの方は育ちが良すぎて嘘のひとつも満足につき通せないのにデリンの方は貧乳過ぎて誰にもばれない――少なくとも、男性陣には気づかれない――対照性もまた楽しい。


イラストがね、いいと思う。新ハヤカワSFシリーズ、銀背復活第一弾は思いのほかヤングアダルト風でね。ずいぶん以前に東海大学前の古本屋で銀背版「宇宙の戦士」の一枚しかない挿絵にショックを受けて、以来銀背も金背もただの一冊も読んでいない身の上としては、例えば児童文庫の扉からSF世界に入って来てくれる若者たちとかおらぬだろうかと年寄りくさい希望を抱くううっ、ゲフゲフ、蒸気が切れる(ジジイ)


なんだろうね自分が全然温室育ちのボンボンで逃避行の現実に対応できてねーよなと嘆くアレックくんが「自分も彼のような普通の少年であればなあ」的感慨を抱く相手が女の子だとか、男勝りで色恋なんざ知るかよ的なデリンさんがぎゅってされると思わずぎゅんぎゅんしちゃうとかもうね、たまらんすよ(;゚∀゚)=3=3=3ムッハー

ヒロイン側の師匠的キャラ(になるんだろーなー)なノラ・バーロウ博士のシズル感ハンパないです。舞乙-HiME的な意味で。海外小説でも萌え要素は順調に拡大してるわけですね。


Youtubeにあった宣伝動画。挿絵をそのままアニメーションに仕立て上げたスタイルです。前に「砂漠の狐を狩れ」でもあったけれど、向こうってペーパーバッグを動画で紹介するスタイルが確立されてたりするのかな?電子書籍との兼ね合いなどは、よーわからんのですが


ダーウィニストよりもクランカーの陣営に与したくなるのは自分がメカフェチ故なんだけれど、リヴァイアサンを始めとする遺伝子改良生物のある種のグロテスクさがパンク成分なんだろうなと思うんだよね。大抵の読者は知らないことだと思いますが第一次世界大戦前夜にドイツ人は本当に「歩行トラック」を開発してたので、ウォーカーは別段パンクでも何でもないのだ。いや開発計画自体はパンクしたらしいんだけどさ。

German Panzers 1914 - 18 (New Vanguard)

German Panzers 1914 - 18 (New Vanguard)

たしかこの本に載ってるハズだけど、また聞きだけで現物読んだことがいのでホントのところは知らない←無責任。