ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

グレアム・グリーン「ヒューマン・ファクター」

ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)

ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)

「第三の男」をテレビで見たことはあるけれど、グレアム・グリーンを読むのは初めて。なるほどこれはエスピオナージュ(スパイ小説)史上に残る金字塔的な作品ですね。

ヒューマン・ファクター』がベスト・テン級のスパイ小説であるのは、技巧的として知られた作家が、その晩年に技術の粋を尽くして書き上げた作品だからである。伏線の張り方や、会話のタイミング、ギャグの入れ方はそこいらにごろごろしている作家の追従を許さない。

「冒険・スパイ小説ハンドブック」収録の宮脇孝雄評。すべて言い尽くされてる気がするが、決して技巧だけではないと言い添えておく。あらすじを書けば簡単だしテーマを説明すれば納得もいくだろうがしかし、この作品の本当の良さは登場人物それぞれがそれぞれなりに醸し出す人間的要素(ヒューマン・ファクター)ではないだろうか。

予防的損失は損害とは受け止めない、それもまた人間的な要素である。秋よりも長い冬の夜に、ゆっくりと時間をかけて読みたい一冊。