ナチス第三帝国の崩壊―スターリングラードからベルリンへ (1973年)
- 作者: ワシリー・I.チュイコフ,小城正
- 出版社/メーカー: 読売新聞社
- 発売日: 1973
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書影はこんな感じ。有名な記録写真ですな。
副題に「スターリングラードからベルリンへ」とあるのは著者であるワシリー・I・チュイコフ元帥(大戦当時は上級大将)がスターリングラード防衛を指揮した人物で、その後ベルリン占領の先鋒となった第8親衛軍を指揮した経歴を持つ人物だからです。どうやらオリジナルはもう少しボリュームのある回想録だったようだけれど、英訳版をもとにした本書は1944年5月(バグラチオン作戦開始直前)からベルリン陥落までの後半部分を訳出したものらしい。故に副題に謳われているにもかかわらずスターリングラード戦に関する記述はほとんどない(笑)アメリカでは1967年に出版されていたようで、冷戦時代から西側でも参照可能なソ連陸軍高級指揮官の著述として、ある種の典拠的な地位を占めていたと思われる。フジ出版の赤本(自分が持ってるのはサンケイ文庫のT-34本だけですが)などでよく聞く話が結構出てきたりする。
いうてもソ連時代の本ですから、良くも悪くもプロパガンダ臭はまとわりついてます。ジューコフ失脚以降の時代の出版物なので割とジューコフ批判をやってるところが面白いか。いわゆる人工月光の無意味さとか、そのほかいろいろ。
概括的な話が全体を占めているんだけれど、所々で前線の兵士、野戦将校や下士官クラスの人間の勇敢な戦闘ぶりが称賛されていてああチュイコフ元帥ってひとは末端の兵隊にまでちゃんと目の行き届く方だったんだな…
などと思うのは早計極まりなく、
どーせプラウダあたりのソ連邦英雄顕彰記事から引き抜いて来たんだろーなーと、そんなふうに捉えた方が良いかと思われ。軽機関銃振り廻してドイツ兵を殴り倒した兵隊とかマンガみたいなことをホントにするヤツているんだなあ。本当にいたのかなあ。
第8親衛軍(旧第62軍)は第二次大戦後半期に大規模な市街戦を幾度も経験しているので、その辺の話は含蓄に富むものと考えられます。独軍のパンツァーファウスト(個人携行対戦車無反動砲)が大規模に鹵獲され広範囲にわたって使用されていることも実体験として理解できるものです。本来ドイツ軍は防衛兵器としてこれを考案したのだけれど、ソ連側ではトーチカ潰しにずいぶんと活用した模様。市街地域における歩兵・戦車の相互協力とか現代戦でも通用する――むしろ近年再評価されている――戦闘についての記述もあって興味深い内容であることは疑いなく。
普段人物にはあまり重きを置かないんだけれど、チュィコフってひとはベルリン陥落の土壇場で特使としてやってきたドイツ軍のクレープス大将(本文ではクレブ将軍と記述)相手に非常にしたたかな「外交」をやった事が優れて秀でた点だなと思う。本書でもそのパートは臨場感あふれるものである。