ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

チャイナ・ミエヴィル「都市と都市」

都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)

都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)

ふたつの都市国家〈ベジェル〉と〈ウル・コーマ〉は、欧州において地理的にほぼ同じ位置を占めるモザイク状に組み合わさった特殊な領土を有していた。ベジェル警察のティアドール・ボルル警部補は、二国間で起こった不可解な殺人事件を追ううちに、封印された歴史に足を踏み入れていく……。ディック―カフカ的異世界を構築し、SF/ファンタジイ主要各賞を独占した驚愕の小説

amazonにも記載がある表4あらすじをそのまま転載してみる。うむ、実によくわからないな。強いて言えば「不条理SF」なのだろうけど、面白いのはストーリー展開自体は不条理ではなくむしろ徹底して典型的なまでの警察ミステリーであって、舞台となる都市の基本設定そのものが条理に合わない、といったところか…

ふたつの都市(都市国家)ベジェルとウル・コーマは分断されているんだけれど、「ベルリンの壁」のように明確な物理的障壁が存在する訳ではなく、都市の住民に心理的なものとして内在しているのがユニークだった。互いの存在が目に見えても「見ない」ふりをし自動車道路上で行き合っても相手の都市の車だけを「存在しない」ふりをして運転する…ような。人為的に位相を変えている「ふりをする」ようなこの設定については正直説明するより読んだ方が理解が早いと思われるが、必要以上に相手を凝視したり不文律として存在する「ことになっている」境界線を越える行為は「ブリーチ」と呼ばれる禁忌事項で、それを犯すと両都市間で上位権力者としての地位を持つやはり「ブリーチ」と呼ばれる集団が強制的に介入しあとのことは誰も知らない「ことにする」

身元不明の女性が殺害され遺棄された事件を追うボルル警部の前には、しばしば都市伝説的に語られるベジェルとウル・コーマの間に存在する第三の都市オルツェニーの名が浮かびあがり…という展開。実際謎解きよりも都市とその住人たちの不条理な文化、異質な社会構成が実に魅力的でよくもまあこんな設定考えたなーと脱帽です。中盤から舞台は国境を越えて隣のウル・コーマ側に移るんだけど、現地で協力するウル・コーマ警察のダット上級刑事の自宅が、地理的にはベジェルのボルル警部補のアパートのすぐ近所だってのがオモロイ。地理的には隣接してるのに、存在にはまるで気がつかない「ふりをする」まるで何かの隠喩のようで、しかし明確にそうだとも言えない。とにかく不思議な話でうーむなんだろうな、

例えば日本の空気には醤油の匂いが立ちこめているそうです。はじめて日本を訪れた外国の人、海外旅行から帰ってきたばかりの人にはよく解るんだとかで…。けれども日本の社会で暮らしている我々は長年の慣習(慣れを習う)ことによってその匂いには気がつかない。あるいは「気がつかないような」振る舞いをしている。そこでもしも往来のど真ん中で誰かが


ここの空気は醤油の匂いがするぞ!!


てなことを大声でわめいたら、多分我々は眉をひそめるしそんな人間に関わらないように「見て見ぬふり」をするだろう、と。だいたいそんなSF。

…なのかなぁ(弱気)ディック―カフカ的とはあるけれど、安部公房的といってもよいかも知れません。そんなことを思うのは私が日本の都市に暮らしているからですかそうですか。