ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

氷菓を評価する(7話)

「遠回りする雛」からの挿入も時系列に従って三番目、「正体見たり」の回。この作品って原作では「氷菓」初版刊行直後に「ザ・スニーカー」誌に掲載された宣伝・告知用の読み切り短編だったはず*1。新規読者開拓用に書かれた一本なので多少なりとも「営業」色が強くて、その点ではアニメ向きの小品なのかな…とも思う。露天風呂とかゲスト姉妹とかね。

原作とアニメは別物として捉えてその違いを評価していこうと思ったのがこの感想文を書き連ねているきっかけなんだけど、今回ばかりは原作派です。冒頭の奉太郎によるモノローグを落としてしまったことと、ラストに現れる「幽霊」をまるで違う方向性にしちゃったことで、原作が持っていた短いながらも明確に残る「後味の悪さ」が全部スポイルされてしまった…。そのことに比べたら原作では中二と小六の姉妹が小六と小四に意味もなく年齢を下げられていることなどささいな違いです。

折木奉太郎という「探偵」は別に職業や義務でなく、強いて言えば単に趣味で謎を解明しているに過ぎない。その課程で他人が隠匿している秘密を暴きプライバシーを侵害する必然は果たして正当化されるのかという、だいたいそんな話なんだけど、綺麗にまとめちゃったな〜という印象。千反田えるの好奇心を満足させるという、この部分は原作でもアニメでも不変の動機付けが、苦い形で終わらないんだな。

 >「なんだかんだ言い訳してもさぁ、ホントのとこ美少女に振り回されてイチャイチャしたいだけだべ?」みたいなドヤ顔感

みたいな批判は確かに的を射ていて、実のところ奉太郎がやっているのは千反田えるのご機嫌をとることだけだったりする。それが嫌味にならないのは謎を解くことがすなわちハッピーとイコールではないと知らしめるような、そんなエピソードなんだけどなあ。


アニメの方はキャラクターが全員ポジティブ過剰に描写されてるんで、伊原摩耶花はともかく千反田と福部里志が若干下世話な人間に見えるのは仕方ないのか。後の二人はもう少し、一歩退いて抑えた性質に描いた方が何かと良いんじゃないかと今更言っても仕方ないですかそうですか。

なんかね、もうYOUたち結婚しちゃいなYO!ってな具合の親密度合いにねー、見えるんですよねぇ…


そういえば「袋のねずみ」についての言及がなかったな。

*1:初出誌及び当時の掲載タイトルについてはWikipedia「古典部シリーズ」項目参照