ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ニール・ゲイマン「壊れやすいもの」

壊れやすいもの

壊れやすいもの

書泉でやってたクトゥルーフェアのなかで、版元品切れでフェア対象に出来なかった本のリストにあったもの。この人の本は「アメリカン・ゴッズ」*1だけ読んで他は手を出してなかった――主にボリューム過多な気がして――けれど、何かの縁だし「アメリカン・ゴッズ」がなかなか面白かったのも確かなので読んでみる。

目次を見て膨大な収録作品(31本!)に驚かされたけれど、半数近くは誌やごく短い掌編なのでボリューム的には読みやすいものです。むしろそれぞれの作品の傾向が千差万別過ぎてそっちの方が大変かも知れない。幻想と怪奇、SFとミステリーの要素。純文学的なものや現代風サスペンスなど実に様々で芸達者なひとだな。そして装丁がいいなと思う。珍しい蝶の標本を見ているような読後感は「壊れやすいもの」というタイトルに実に似つかわしい。

ラヴクラフトクトゥルフ神話的な作品は(何をどう捉えるかはまた別として)それほど多くはない、というよりむしろ冒頭の一本「翠色(エメラルド)の習作」だけじゃないか…と思われる。しかしながらこれが実に傑作で、19世紀ビクトリア時代のロンドンを舞台に長身の諮問探偵とその相棒のアフガン帰りの同居人が…という、シャーロック・ホームズパスティーシュだったりする。「緋色の研究」と「ボヘミアの醜聞」を足して2で割ったようなフリをして、最後に驚かされるところ、ラストの変転具合は実にラヴクラフトしてます。

全体として面白いけどあんまりクトゥルフっぽくはないナーと思いながら読み進めてたら「パーティーで女の子に話しかけるには」がとんだコズミック・ホラーだったので度肝を抜かれる。女子力は恐怖だ!!