ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ジョン・ハート「アイアン・ハウス」

アイアン・ハウス (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

アイアン・ハウス (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)


アイアン・ハウス (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

アイアン・ハウス (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

アイアン・ハウス (下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

アイアン・ハウス (下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミステリ文庫版もあり。2バージョン同時刊行って珍しいよな。


むはー、面白かった。いろいろ複雑な話なんだけど、まずは表4あらすじを貼っておこう

凄腕の殺し屋マイケルは、ガールフレンドのエレナの妊娠を機に、組織を抜けようと誓った。育ての親であるボスの了承は得たが、その手下のギャングたちは足抜けする彼への殺意を隠さない。ボスの死期は近く、その影響力は消えつつあったのだ。エレナの周辺に刺客が迫り、さらには、かつて孤児院で共に育ち、その後生き別れとなっていた弟ジュリアンまでが敵のターゲットに!マイケルは技量の限りを尽くし、愛する者を守ろうと奮闘する―ミステリ界の新帝王がかつてないスケールで繰り広げる、緊迫のスリラー。

ここだけ見てハヤカワポケミス二段組で500ページ強の大ボリューム、これはきっとハードなアクションが連続する大活劇だろうと…そんなふうに考えていたけど甘かった。いやー、甘かったな。アイアン・ハウス孤児院で受けた陰湿な暴行*1から殺人を犯す弟ジュリアンとその罪を背負って逃亡した兄マイケルの人生が上院議員の養子と犯罪組織の優秀な殺し屋という対比はいかにもありがちながら、組織の追っ手から弟の身を守るべくマイケルが訪れたノースカロライナの上院議員宅の方にこそ謎の主眼は置かれていて、ギャングの方は実は単なるフレーバーだったりする。心身を患ったジュリアンは何の真実を見たのか、池から次々に上がる死体はなぜ孤児院時代の当事者達なのか…


「かぞく」や「きょうだい」の絆、アメリカの貧困地域に於ける土着的な因習など、ちょっと横溝正史金田一耕助みたいな空気を纏っているようにも思える。ボリュームのわりには非常に読みやすく、むしろすぐに読み終えてしまうのが勿体なくてペース落としたぐらいです。マイケルもジュリアンも家族だと思ってた人間に裏切られたり、それでも自分の「新しい家族」を作ろうと懸命であったり、対照的だけれども同じような振る舞いをする。きょうだいを結びつける絆って、そういうものかも知れないな。二秒で三人を射殺するようなタイプの凄腕が出てくるわりに警察組織が優秀に描かれてるのも好感触。大抵ならもっと無能な方向でやりそうですから。


人間の存在を決定づけるのはアーキテクチャーよりアドオンされたプログラムの蓄積だと思うんだけど、それでも物理的な構造材の原料が同一ならば同一の解を導き出す可能性は常にある。そんなふうに思う。


兄弟それぞれの側に用意されたサブキャラクターのオッサンたちが非常に魅力的です。マイケルの側には執拗に彼を憎み追跡する殺し屋のジミー、22口径を愛用し苛烈な暴力性を剥き出しにした人物と、ジュリアンの側には上院議員夫人アビゲイルの忠実なボディガードにして複雑な感情を内に秘めるジェサップ。もしもこの話が映像化されるなら、後者を演じるのは(黒人と名言されてはいないが)モーガン・フリーマンがいいと思うし、前者の方は(これも東洋人と明記されてる訳じゃないけど)全盛期の田中邦衛がいいと思う。「北の国から」で牙をもがれる前の、もっとギラギラした時代の…

*1:しかしアメリカのミステリー小説に登場する孤児院はどこも地獄の出張事務所みたいなところだね