ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ブラム・ストーカー「ドラキュラの客」

ドラキュラの客

ドラキュラの客

国書刊行会四十周年記念フェアにて入手したブラム・ストーカー作品集。元々は1976年刊行のドラキュラ叢書シリーズの一冊(第2巻)だった書籍を1997年に新装版として復刊されたもの。カバーが1997年当時のままでバーコードの消費税データが3%だったのには苦笑したけれど、刊行当時のチラシ(「怪奇SF映画大全」刊行にタイアップした内容)が折り込まれていて貴重ではあり。

以前感想を書いた「判事の家」*1が収録されていたのが一番の購入動機なのだけれど、表題作「ドラキュラの客」がなかなかに面白かった。イギリスからの旅行者である「私」が、ドイツ・ミュンヘン近郊で地元住民や御者の制止を振り切って「ワルプルギスの夜」に呪われた廃村を訪れ、怪異に出会い――謎めいた狼によって一命を取り留め、傷を負いつつも街へ戻ると旅の目的である「ロシアの貴族」から道中客人の保護と安全を命じた電報が届いていて…という結末。そこではじめてタイトルの意味と何が恐怖であるのかが読者に明かされるメタ的な趣向でした。かの「吸血鬼ドラキュラ」執筆推敲の際にカットされたパートを短編作品に仕立て直した物らしいんだけれど、番外編的な良さか。

全体的に訳文は硬くいささか古くもあり、決して万人受けするような一冊ではないのだろうと思うけれどもドラキュラ一作で名を成したストーカーのいろいろな作風を知れるのは良かった。土着的な物あり伝奇的な物ありで様々ですが特に「狂った砂」は訳出当時はともかく現代でならばまさに「コスプレ」をテーマとしたホラーとして十分楽しめる内容。これ一本だけでも新訳されていいんじゃないかなあ。

挿絵がね、いいと思う。どれもある種のバタ臭さ?というか洋物パルプホラーっぽいというか、どこかキッチュな感覚です。