ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ロバート・A・ハインライン「人形つかい」

人形つかい (ハヤカワ文庫SF)

人形つかい (ハヤカワ文庫SF)

古典的侵略SF。自分の人生の古典的な時代(笑)に一度読んでいるけれど、正直印象は薄い。世界SF全集の二段組*1で読んだんだったかなあ、ナメクジ状の宇宙生物「支配者(マスター)」よりもヒロインの存在事情の方が大きなウェイトを占めていたような記憶が微かに残っていて、今読み返してみるとなるほどヒロインのメアリは存在感がある。夫婦や父子といった家族関係の在り方に重きを置くのはウェルズよりもトム・クルーズな「宇宙戦争」かも知れない。映画見てないんですけどね。

結局病原菌かよ!とかラスト付近の展開が御都合主義じみてるきらいはあるけれど、ある時代、ある時期を代表するような、且つ現代でも読めるクオリティを保っているような、古典としての地位は揺るがないと思います。

いま読み返すと主人公サムの上司である情報機関のボス、「おやじ(オールドマンのルビ有り)」がねえ、い〜いキャラクターなのよ。

で、たぶんアレだな、この話の一番のポイントは「侵略を撃退した結果、人類の社会や思想がそれ以前の状態よりも書き換えられること」にあるわけで、初期の「戦闘妖精雪風」の世界が何を危惧していたのか、JAMの侵略よりもJAMの侵略によって起きる社会の変容の方が人類にとっては脅威である、みたいなSF観を多分に作者本来の意図とは無関係に観察することができます。

「支配者(マスター)」の侵略を撃退した結果人類はみな全裸で生活するようになるんである。これが脅威でなくてなんだ。世の中スマートな人間ばかりじゃないのだ。

*1:第12巻に「夏への扉」とともに収録