ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

モーリス・ルブラン「ルパン、最後の恋」

2011年にタイプ原稿が発見されたモーリス・ルブランの遺作ということで話題になった一冊。日本語版ではシリーズ第一作「アルセーヌ・ルパンの逮捕」初出版も収録されているのでルパンシリーズの終わりと始まりを一読出来るのが良い所かと思われます。

実際のところ推敲途上で作者が亡くなった作品なので、諸処の展開にはやや粗いところも見受けられる。しかしながら壮年に差し掛かった怪盗紳士が貧しい子供に教育を施したり、出生に秘密のある女性を幸福な結婚に導こうと奮闘したりと、老いを見据えて尚義賊的な振舞いをするところは読んでいてそれなりに気持ちが良いです。オジサマ的な何かか。

「ありがとう、きみは本当に紳士だ。きみに現実を見る目(レアリスム)が欠けているのは残念だが」
 アルセーヌ・ルパンは再び彼を見送りながら、指を立てて答えた。
「理想主義(イデアリスム)のほうがずっとすばらしいさ」


なるほどイデアですか。アルセーヌ・ルパンというキャラクターは素朴な愛国者としての一面を強く持っていて今回この話でのイギリス観には(あるいはやはり収録されているルブランのエッセイ「アルセーヌ・ルパンとは何者か?」のホームズ観には)ちょっと引くところもままあるのですが、思うに第二次大戦とナチス占領の時代を過ごした後のフランス社会では、こういうタイプの素朴な愛国主義はある意味幻想的で理想的なのかもしれないなあ、などと。

「わたしの命はあなたのものです。あなたの前に愛した女は一人もいません。本当に愛した女は。わたしがそう言うのを聞きたいなら、何度でも言いましょう。でも結婚だけは望まないでください。わたしは結婚すべきではないのです」


……あー、やっぱり今も昔もむかしもフランス人って少しも変わってないかもだ(w

<追記>

児童向け翻案まで出てるとは知らなかった。流石だなポプラ社www