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ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ジャン・マーク「ライトニングが消える日」

ライトニングが消える日

ライトニングが消える日

イギリスの、児童文学ということになるのか、都市から郊外へ家族で越してきた主人公アンドルーと引っ越し先で出会った新しい友人ビクターとのごく普通の日常を、どこか淡泊にしかし虚飾無しに記述するようなお話し。ということで特にストーリーに大きな起伏は無いし、アンドルーの過去の学校生活やビクターの現在の家庭環境が何か抑圧を抱えていることは示唆されつつもそれ自体は大きなテーマではない。そこで大きな主題となるのは幼い子供が幼いなりに純朴な憧れを抱く「飛行機」であり勿論タイトルになっている「ライトニング」である。

子供部屋の天井からプラモデルを吊り下げたり、コミック雑誌に描かれたコマを切り抜きしたり、稚気あふれる憧れ方は、飛行機に限らず子供の頃何かに憧れを抱いた人なら容易に共感が出来るだろう。レーシングカー好きでペットのハムスターに「フィッティパルディ」なんて名前を付けてた――もちろん、エマーソンの方だ――アンドルー君が、引っ越し先で出会った飛行機マニアのビクター君(殊勝なことに自国機好きでハンドレページ・ビクターを「ぼくの名前を取ったんだぜ」なんて言ってくれちゃうんである)に一発で感化され、ふたりで英国空軍コルティスホール基地まで「チャリで来た」まま国産超音速ジェット迎撃戦闘機ライトニングを眺めたりするわけだ。著者ジャン・マークはまるで男性のような名前だけれど実は本名をジャネットという女性作家で、(いささか失礼な言い方だけれど)女性とは思えないほど「男の子の目から見た飛行機の格好良さ」を存分に描いている。いやだって日本のどこに「男の子の目から見た三菱F-1の格好良さ」を描いた女性作家がいらっしゃいますか。つまりそういうことである。

ある意味、抑圧の反動としての趣味や憧憬として飛行機を扱っているような感じなんだけれど、タイトルにもあるようにイギリス国産ジェット戦闘機BAEライトニングはその任を解かれ後継となるのは三カ国共同開発のジャギュア(本文では「ジャガー」表記)、その交代劇は本書のクライマックスで、いささか寂しい幕切れで本書は幕を閉じる。とはいえ、ラストに少年達の目の前を、轟音をあげて上昇していくライトニングの姿は美しくあーアレだね、三島由紀夫がF-104に乗って射精がどうこうとか言った、あれがいちばん近い感覚かなあ。

随時訳注を入れた翻訳も丁寧なものであり「再燃焼」と正しく訳されていたおかげで、なぜイギリス人はアフターバーナーのことを「リヒート」なんてヘンな名前で呼ぶのか漸く納得がいきました。なぜアメリカ人はリヒートのことを「バーナーの後」なんてヘンな名前で呼ぶんでしょうね!(英国色の目で)

ただひとつだけ、「F-111」が「F-III(えふすりー?)」になってたのはあれは間違いなのか実際に英国人がそう呼んでたのか、それだけ謎なのである…