ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ジャスティーン・ラーバレスティア「さよなら駐車妖精」

さよなら駐車妖精 (創元推理文庫)

さよなら駐車妖精 (創元推理文庫)

出たのは去年の8月か、「氷菓」のアニメがあったりで米澤穂信がブームになってた頃なので釣り過ぎにも程があるタイトルとか、いろいろ気になっていた一冊。現代は“HOW TO DITCH YOUR FAIRY”で「あなたの妖精の引き剥がし方」ぐらいの意味です。

妖精といってもティンカーベルや人類衰退しました(・ワ・)的なものではなく、目には見えないしコミュニケーションも出来ない、しかし取り憑いた人間に必ず何か一つの影響を与える生き物(?)が存在する世の中が舞台の、現代アメリカ調女子高生小説とでも言えばいいのかなあ。ハイスクールでも14歳なんで「女子中学生」としたいところではありますが。

主人公のチャーリー(本名シャーロット)に憑いているのは「必ず駐車スペースがみつかる」恩恵を与えてくれる「駐車妖精」なんだけど、14歳の身には直接役立つわけもなくむしろ他人の便利に使われているばっかりでチョーむかつくからこいつを引っぺがしちまいましょー!だいたいそんな話です。主な舞台となる学園が「ニューアバロン・スポーツ高校」で、校則に違反し罰点が溜まるとさまざまな競技の試合出場が不許可となるので、いかにしてそれをかいくぐるのが人生の重要課題だったりする、そんな時代か…。アッパーミドルなんでしょうねこういう世界はね。

必ず格安で良品を手に入れられる「服のお買い物妖精」や必ずトラブルを回避できる「ごたごたを免れる妖精」などの便利な妖精が憑き、そこから利益を得ている人間がいる一方で、全く存在を信じない人間もいて作品中に不思議な温度感はあります。近所に引っ越してきた転校生のステフィにチャーリーはお熱(死語)なんだけど、こちらも気がありそうなステフィは必ず「男の子をみんなとりこにする妖精」が憑いてるクラスメートのフィオにべったりでまあいろいろと、そんな感じ。

それぞれの妖精は取り憑かれた人間に幸運をもたらしてくれる存在なのだけれど「必ず」効能を発揮するのがひとつのキーで、偶にあればラッキーなことでも必然となればそこにはマイナス面も存在する、他人から見れば幸福な恩典でも、当事者にとってそうとは限らない。たぶんそれはひとつのテーマで、ある方法でお互いの妖精を取り替えたチャーリーとフィオはそのことに気がつき妖精を追い払う……と、それで終われば良くできたジュブナイルだと思うんだけど、最後の最後でチャーリーには大変便利で超ラッキーな(しかし、いかにもその場しのぎで長期的な恩恵に欠ける)妖精が新しく取り憑いてハッピーですおしまいってそれでいいのか。

うーむどうもその、作品の持つモラルとインモラルの境界線がよくわからないんだよなこの話。一歩間違えると(実際その一歩を間違えてるって気がするんだけど)単に自己中心的な性格の主人公が自己中心的な満足感を得るだけのストーリーに成りかねないなと。各キャラクターの言動にもあまり共感がもてないのですが、唯だひとりフィオの母親で妖精研究の大家タムシン・バートナム−ストーン博士だけは大変にシンパシーを感じました。研究だけして生原稿をご大層に抱え込み、なんで世間に発表しないのかと実の娘に難詰されても満足に答えを返さないような人ですが、この研究内容ではいくらそれが真実でも世間に発表出来まいよ……

訳者あとがきで著者ジャスティーン・ラーバレスティアは「リバイアサン」三部作のスコット・ウェスターフィールドの奥さんだと知ってなんとなく納得しました。あまり良い意味ではないですけれども。

あーあと、スポーツ特待生がクソだってのは洋の東西を問わぬようですな。