ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

月村了衛「機龍警察 自爆条項」

機龍警察 自爆条項  (ハヤカワ・ミステリワールド)

機龍警察 自爆条項  (ハヤカワ・ミステリワールド)

前作「機龍警察」を読んだ際*1の感想に

緑ちゃんとライザさんの薄い本ください。

などと書いたらほんとにキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!! な、第二巻。薄いどころか文庫では二分冊されるボリュームでまあ確かに前回メインキャラクター二人の間に相当の因縁があるのを濃厚に示唆しておいて、次回作でそれを書かないはずもないんだけどな。

前作ではまだぎこちないように感じた各キャラクターの設定や性格が、なにか落ち着いたように感じるのか相当読み易くなったように思う。本文中に

文言の一つ一つが陳腐に見えてきた。分かりやす過ぎるのだ。だからこそ広く浸透したのかもしれないが。

そんな記述があって成程前作で受けた不自然な感覚はある種の陳腐さだったのかも知れないなーと、あらためて思わされました。前作ではいささか不自然なまでのキャラ付けが鼻についた姿警部や沖津特捜部長が見せる「趣味人」の一面も、今回はうまく本筋の運びとマッチしているように思えるわけだ。こういうネタは重ねて繰り返すとに意味が出てくるものだし、それとは別に読んでいる自分の側に「慣れ」が生じたことによるものかも知れないけれど。

むしろ前回はあくまで謎の提示で、続刊を続けるごとにひとつひとつ明らかにしていく様なシリーズ構成の趣向が機能し始めたということなのかも知れません。今回メインは龍騎兵三番機「バンシー」に搭乗するライザ・ラードナーで、過去回想の章を差し挟むことによって彼女のアイデンティティーがどのように構築されたのか、現代のテロ事件に直面してそれがどう変化していくのかを記述していく、その構成が実にいい感じ。やや芝居がかって見えたいくつかのシーンもクライマックスに向けて自然に納まっていく流れが良かった。日本SF大賞を受賞した本書ですけれど、むしろミステリーの要素が強めか。SF的な見せ場としてはロボット兵器(パワードスーツ)が一般市民の聴唖者と手話でコンタクトするような場面は初めて見たように思う。日本のロボフィクション史上にしてもなかなか画期的なことでやっぱりロボには手が大事なのです。地味なシーンだけど意義深いですよ?などと。

戦争よりは愛と平和だ、というのはアニメやマンガなど日本のロボ(に限らずか)フィクションがもうなんどもなんども繰り返して来た陳腐なテーマなんだけれど、本書ではそれが刹那的な感情の吐露ではなくて、老境(あるいは死者)からの、達観した文章で訥々と語られるところが良かった。若書きの詩人の扇動を落ち着いた紀行文が上書きしていく、朝日新聞のTVCMじゃないけど「言葉のちから」を映像ではなく言葉で綴っているところが良いなあ。その上書きされる心情があくまでライザひとりの内面に止まっていることも、大衆向けなプロパガンダに抗し得るのはひとりの個人の有り様だというスタンスでこれまた良いです。そういうテーマがラストシーンの「本を読むこと」に結実するのは綺麗な幕切れで、なるほど様々なところで評価が高いわけだな。ライザさんについてはやり尽くしちゃった感もありで、このあとどうするんだろう?また現場で突然「G線上のアリア」弾き出す死神になるんだろうかと、それはちょっと不安になりますが(笑)

前回同様警察組織・官僚機構の軋轢やしがらみが組織や個人に色濃くまとわりつくところもあり、こちらサイドのいわば浪花節的な要素やキャラクター達も一種陳腐な「ロボット警察もの」を越えて幅広い読者層にアピール出来ているのではないだろうか?でも十代の読者には受けが悪いかも知れなくて「大人向けライトノベル」みたいな位置ではあるのか。作中一番の謎は沖津特捜部長よりも三体の龍騎兵そのもので、犯罪を取り締まるための存在が却って犯罪を呼び込んでいる構図もやはり前回同様、正体不明の「敵」がなかなか実態を見せてこないのも同様。その辺はまだ引きの段階か。


「機甲兵装」の設定や現代とは大幅に異なる政治情勢など「近未来もの」要素が強い割には東京近辺の地理や使用される銃器が現代的なのは前回ちょっと不満だったのだけれど、どうもこれ近未来ではなく「フルメタル・パニック」シリーズのようなオルテネイティヴ現代世界なんだろうか。そう考えた方がいろいろ辻褄は合いそうです。しかしこんだけ大規模なテロ事件がズンドコ連続していると、この世界の日本では政権交代が激しそうではある。流石にそっちを書き出すと収拾つかなくなるだろうけど。あとこの世界の東京近辺は地下鉄やトンネルに爆弾仕掛けられ過ぎで、 国土交通省東京都交通局が阿鼻叫喚の地獄と化しているだろうことは想像に難くないw

次回はたぶんユーリの話なんでしょうね、次も期待します。