ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ベン・アーノロヴィッチ「地下迷宮の魔術師」

地下迷宮の魔術師 (ハヤカワ文庫FT)

地下迷宮の魔術師 (ハヤカワ文庫FT)

「ロンドン警視庁特殊犯罪課」シリーズ第三巻。先に不満を書いてしまうと(ややネタバレになってしまうけど)今回のお話しに「地下迷宮」も出てくるし「魔術師」も絡むけれど、それら二つの要素は直接関連していない。別に魔術師が地下迷宮に住んでる訳ではないしカバー画の男女が「地下迷宮の魔術師」なわけでも、ない。このシリーズ邦題をすべて「○○の魔術師」で統一するみたいだけれど実際の内容とは乖離していて、思うに最近のハヤカワFTに見られる「邦題に統一感を持たせようとする」センスが空回りしてるんじゃないかなあ。アレクシア女史のシリーズとかね。

原題は“WHISPERS UNDER GROUND”と言ってこちらは当然内容に根ざしたもの、ただ地下鉄構内で発見された「魔術的な陶器の破片によって殺害された男」の事件を追って行く中で、ロンドンの地下に広がる広大な空間と地下生活者達の存在が表出するのは本書でも結構後半のこととなるのでこの原題もいささかネタバレ気味ではあります。「地下に囁く者」だとなんだかラヴクラフト的でもあるしな。いや実際、地下鉄と地下生活者ってネタはありがちなものだし本文でクトゥルフ神話に言及する*1場面もあったけれど。

各章ごとのサブタイトルが舞台となるロンドン市内のそれぞれの地名・ストリート名となっていることからも明らかなように、本書の一番のテーマとなるのは現代ロンドンそのものなのでしょう。いわゆる都市萌えというヤツでTVドラマ「シャーロック」で現代イギリスに親しんでいる人ならば、話にノリやすいかも知れません。

まあ例によって一番のボリュームを占めているのは主人公ピーター・グラントくんの本編とは大して関係のない脱線じみた語り口そのものなんだけどな。今回ゲストキャラとして登場するFBI特別捜査官がいかにもワケありな女性キャラだったんでまたぞろねんごろ展開か!と不安になったけれど、幸いにしてそれはなかった(笑)

もしそうなってたら切ってたかも知れないなあ。一巻で顔に大怪我を負い二巻で見習い魔術師の道を歩み始めたレスリー・メイちゃんが今回はマスクで傷を覆い隠しながら現場捜査に大活躍で、しばしばそのマスクを外して素顔を曝す行為が意図を持って描かれるのだけど、これがもし映画やマンガだったら別の意味合いを持たざるを得ず、やはり活字で表現することの意味は大きいのだろうなと、それは思いました。

前巻から引き続き「顔のない魔術師」の足取りと手掛かりは見えてくるけど次回に持ち越し、これがおそらくシリーズテーマとなるのでしょうね。これまで活躍の少なかったナイティンゲール警部もすっかり回復して前線に復帰、思わせぶりな新キャラクターもいくつか登場して続刊を待てと言うところか。

白状するとお話しとしてはこのシリーズそんなに面白くはありません(汗)ただ、本シリーズを読んでいてキャラクターの行動や心情に対して自分が覚えるいくつかの感覚は本文とは直接関係のなく自分自身のあー中核的な(?)「もののみかた」に依拠していて、それらのことを公然と主張すれば


たぶん社会的には「差別と偏見」だとみなされるのだ。


自分の内面にはそういうものが確固として存在する、それを再確認する作業は大事だろうと考えます。それが目的でこのシリーズ読んでるような気もするのは、本読みとしては邪道も良いところで(藁

*1:ただし、ロールプレイングゲームとして