ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ビクター・オストロフスキー/ クレア・ホイ「モサド諜報員の告白」

モサド情報員の告白

モサド情報員の告白

内容についてはこちらのまとめも参照。面白そうだったので図書館で探してみた。成る程確かに面白い。この分野ではウォルフガング・ロッツ「スパイのためのハンドブック」
asin:4150500797という名著があるけれど、あれをもっと生々しくしたようなものか。

三部に別れた内容の一部と二部がモサドへ採用されるための試験と実践、三部が70〜80年代にかけてモサドが行った諜報活動についての個別解説。当人が直接関与した最初のふたつが圧倒的に面白い。なにしろ訓練校に入って最初に言われる話が

君たちは仕事の話を電話でしてはならない。諸君が自宅の電話でオフィスについて話しているのを掴まえたら、厳罰に処す。自宅で電話している話の内容がどうしてお前に分かるんだという質問はしないでくれ。

これだよ。諜報組織って怖いですね((;゚Д゚)ガクガクブルブル 


もちろん第三部でも面白い話は転がっていてスーダンを舞台にしたとある工作の過程で現地の役人が賄賂に「十段変速の自転車」を欲しがっているという情報が伝わりそれは何の隠語か暗号かと散々悩んだ挙げ句再度確認したら

彼は十段変速の自転車が欲しいのだ。それだけのことだと知らされた。

そんなほっこりエピソードもあります。どんな世界でもそこで動いているのは人間だということだな。

二人の著者でも当事者である方の「ビクター・オストロフスキー」である人物が主に人間的トラブルで組織を離れた(脱走に近いじゃないだろうかこれは)あとでの「暴露本」でもあるので果たしてこの内容をどこまで事実として受けとっていいのか疑念もあるけれど、内容としては興味深いし面白いものです。日本のテレビの報道番組に出てくる「私は北朝鮮の諜報部員だった」人ほどには眉に唾しなくて良いんじゃないだろうか。

アランはアメリカの情報界に多くの友人がいる、とわれわれに話した。「しかし私は、常に最も重要なことを思い浮かべている」と言うと、効果を狙って間を置いた。「私は友人と一緒に腰を下ろしているが、相手は友人と腰を下ろしているわけではない。


――思うに、諜報分野の書籍でその内容の真偽を問うことが既に野暮なことではないだろうか。「どうせ本当のことはわからないから落合信彦の本でも読め」も一面では正しいのだろうな。




それが伝えんとしているのは、常にスパイの言葉は額面通りに受けとってはならない、ということにほかならない。