ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

佐藤亜紀「小説のタクティクス」

小説のタクティクス (単行本)

小説のタクティクス (単行本)

「小説のストラテジー」のいわば続編となるもので、基盤となったのは前回と同じく明治大学で行われた講義録。なので「エッセイ」なんてくくりにするとセカイブンガクゼンシュウの角で殴られるような恐れもあるがまあいいか別に。「小説」についての語りではありますが、例によって俎上に上がるのは映画や絵画といった題材における「表現そのもの」であるので、別にこれ読んだからって小説作法を学べたり文章がすらすら書けるようになるものではありませんので念のため。いちおう現代の世に小説作品を描くに当たっての心構えみたいなものは説かれますが、それをどう受けとるかは受け手次第でしょう。「世界は『事故』からなり、『運が悪かったから』が全てを支配する」という提言はすとんと腑に落ちるものではあります(個人の感想です)

繰り返し語られる「顔を剥ぎ取られる」事に対して自分が想起したのはドイツ版の映画「スターリングラード」で汚れて傷つく兵士達がみな個々のキャラクター性を喪失して区別がつかなくなっていく様ですが、こと記述表現の分野に於いてはテンプレの多様や「お約束」的な言い回しとしての内輪向けジョーク<でしか>成立し得ないコミュニケーションのかたちは個人から顔を剥ぎとる行為なのかも知れませんね。

そんなことを考えました。


ところであずまんこと東浩紀は伊東計劃の「ハーモニー」について、内容については批判的ながらも

末期癌を患った状態でこの小説を書き、死んだことを考えると大層悲劇的なので大賞をあげる。

ホントにそんなこと言ったんでしょうか?如何にも言いそうではありますが。あと佐藤哲也の「下りの船」読みたい。