ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

宮内悠介「ヨハネスブルグの天使たち」

ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

いまどきのね、作品だなと思う。本書で扱われているガジェットもテーマも、実にいまどきで判りやすい。判りやすい反面、ではこれは何なのかと問われると返答に窮するような気がする。この連作短編諸作の中で自分がもっとも気に入ったのは9.11事件を人格転移ロボットによって再現する「ロワーサイドの幽霊たち」なのだけれど、ではこの作品が何なのかと問われるとちょっと困る。でも、何故これが好きなのかならば答えは簡単、判りやすいからだ。いまどきのもの(とはいえもう十数年も前の出来事である)として、自分が見たもの考えたこと、実体験や現実の社会と容易に結び付けることが出来る。

「容易に」とか「判りやすい」なんて言葉はあまり軽々しく使うものじゃないのだけれどね。どうしたって本書は伊東計劃と同じくくりにされがちだけと、むしろ「南極点のピアピア動画」に非常に近しいものを感じました。ただボーカロイドネタってだけではなく、近いというか似通ったものというか、それほど異なるようには思えない。*1エロスとタナトスの違いぐらい?

「最近になってようやくSFは現実の社会を反映するようになった」みたいなことをよく聞きます。けれどもSFはずっと昔から現実の社会を反映しているし、尚言えばSFに限らずあらゆる文芸作品はすべてその作品が作られた時代の社会観や構造、問題点を如実に反映してきました。いつの時代も人間は想像する動物で、且つ創造する動物でありました。

だからまあ、あまり山師の口上に乗せられ過ぎるのもどうかと思うんだよな。

*1:「それはお前の読解力の問題だ」などと言われると笑って誤魔化すしかないが