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ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

月村了衛「機龍警察 未亡旅団」

小説・SF

さて、何の話からはじめようか? 有名なところでは「マジンガーZ」でも「鉄人28号」でも、マイナーな路線なら「アストロガンガー」でもいいし「巨神ゴーグ」などは相当に趣味だ。けれどやっぱり「機動戦士ガンダム」が一番やり易そうなのでまずはガンダムについて話すことにする。

ガンダムに出てくるロボットはモビルスーツと呼ばれる。何故スーツかと言えばそれは勿論ハインライン「宇宙の戦士」からの系譜に属するものなのだけれど、あくまで兵士の軍服に過ぎなかった「強化服」に比べるとモビルスーツの、いやガンダムのもつ性質は相当異なっている。服飾デザインを大胆に取り込んだガンダムのデザインは「背広」を模したものであり、スーツを着た少年が戦争に出掛けて対等に大人達と渡り合うというストーリーの構造、根幹に大きく関わる存在である。簡単に言うとロボットは子供を強くする為の道具だ。アニメに限らず日本のロボットフィクションはそうやってずっと弱者に力を与えてきた。無論それだけではなく最初からプロフェッショナルが搭乗してプロフェッショナル的に活躍するロボット物も多いけれど*1、弱者が強大な力を得るものとしての側面は、日本のロボットフィクションの主軸だとして間違いは無いでしょう。

「機龍警察 未亡旅団」に「未成年の女子が搭乗するパワードスーツを用いた自爆テロ攻撃」なる相当に歪な光景が描かれても、これは日本のロボット物の、むしろ伝統的な領域に属する存在なのではないか…と、そんなことを考えたわけです。チェチェン紛争の被害者によって結成された女だけのテロリスト集団「黒い未亡人」の子ども兵士+ロボットという組み合わせは、例えばガンスリンガー・ガール義体少女たちよりも長く我々が馴染んできたもので、我々が馴染んできたものをほんのわずかに角度を変えて、また別の形で見せてくれます。

自爆テロ攻撃に用いられる機甲兵装「エインセル」がいろんな理屈を重ねた上で、内部の搭乗員が後ろ向きに搭乗している「バックワーダー」と呼ばれるパワードスーツだという設定はなかなかに面白い。あさりよしとおの「中空知防衛軍」にもそんなパワードスーツが出てきたなあと懐かしく思う一方、これらの元ネタはキャプテンスカーレットの「追跡戦闘車」で、進行方向に対して後ろ向きに着座していた方が衝突時の安全性は高いんだよな。事故に備えて旅客機の座席を後ろ向きにしようという提案も昔から有りますが、昔から誰の賛同も得られません。そんな理屈はさておき、子どもがロボットに乗ってテロ行為を行う作品も昔から有りますが*2自爆テロ攻撃という非常に今どきな手段を決してポジティブな物としては扱わない「後ろ向き」な操縦システムという設定を付加したのは実に実に良いね!ただパワードスーツを描くよりもずっと主題的な関わりが感じられ、率直に言ってこれまで本シリーズに登場する機甲兵装そのものにはそれほど魅力を感じてこなかったのですが(失礼!)今回のエインセルの歪さは非常に強く印象に残る。子どもとロボット、いいねぇ…


まあ未練ですね(何がだ)


今回、ストーリー的には3名の龍騎兵搭乗者から離れて由起谷主任や城木理事官といったごく普通の(?)立場の警察官にスポットを当てているのが特色でしょう。第二章の章題が「取り調べ」となっているように物語の中核を占めるのはアクションよりも日本的な捜査活動、警察小説らしさが前に立ちます。女だけの暗殺組織やそこに潜む母性の怖さ、やや中性的なカティアのキャラクターなどには「NOIR」との類似性や差異を指摘することが出来ましょうが、その辺全部放り投げてロボット要素を称賛したくなるのはなんだ、病か。

現役の若手国会議員と女性テロリストのアレというのもいかにもメロドラマだけどさ、現実に護衛のSPを振り切って六本木にしけ込み、あまつさえ路上でキスしてるところを撮影された国家公安委員長が存在する*3のが日本です。却ってリアルでなんでもアリですね日本の政界はね(わらい

「機龍警察」の設定やストーリー展開を考えたら絶対に出てくるはずの要素が今回もまた出てこなかった。これまではロシアやヨーロッパ情勢を主にしているのは作者の趣味の領域かと思っていましたけれど、前巻「暗黒市場」との間に「コルトM1851残月」を読み*4、更にこちらの感想を受けて


月村了衛『コルトM1851残月』― logical cypher scape

数年だけ早い新兵器って、龍騎兵と同じだ


機龍警察シリーズにアメリカが出てこないのはワザとやってるんだろうなあと、そんなことを考える。コルトはどこからやって来て、そしていまだ謎のままの龍騎兵の製造元は果たしてどこなのだろうか。沖津特捜部長って何故「前職は外務官僚」に設定されたんだっけ?と特に物証もなくただ推察と予断を重ねるのは、日本の警察捜査の悪いところで冤罪を生む元なんですけど(えー


そんでそろそろ自衛隊も出して良いかと思うのですけどね。なにしろSAT死に過ぎ問題というのがあってだな*5


今回絡む場面は少ないけれど、相変わらずみどライザは濃いです良いです。特にみどりちゃんがうっかり「鉄の処女(アイアンメイデン)」に閉じこめられたライザさんとかモーソーしちゃうとこなんか絶品ですよ絶品!(机バンバン)

しかし今回新キャラの桂絢子庶務課主任が相当に強キャラの匂いである。みどりちゃんピンチだってことより特捜部に庶務課があるのに驚いた。そりゃあるだろうが…


ラストは拙い文章で綴られたカティアからの手紙で幕を閉じます。拙さが真摯さを重ね持つのは子どもらしさの持つ良さでね。「機龍警察」を映像化しろって声もよく聞くけれど*6、やはりこのシリーズは活字で読んだその上で、描かれる世界と人々を堪能したいものです。それにエインセルを実際の映像で見たらまずギャグにしか見えないだろうしなあ


あとあんまり深い意味は無いと思うんだけど、ストーリーとは直接関係無く、単に名前だけ出て来た「与党の大物」が小林岡本市川木ノ下ってこの並びだと映画監督の苗字だよねえ。これまでネーミングについては気にしたことが無かったけれど、他にも何か遊びがあったんだろうか。

*1:例:「機龍警察」シリーズ

*2:咄嗟に思いついたのはガンダムSEEDの「スターゲイザー」とかだな

*3:外国のテロ実行犯を国費で日本に招いてヘリで遊覧飛行させた人物としても有名w

*4:http://d.hatena.ne.jp/abogard/20140212

*5:作品前半でのSAT主体の突入作戦 → 失敗全滅の流れはもはや様式美の範疇である

*6:今更パトレイバーを実写化するより余程意味があると思うけど