ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ベン・H・ウィンタース「カウントダウン・シティ」

カウントダウン・シティ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

カウントダウン・シティ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

「地上最後の刑事」*1の続きで、三部作の二作目。約80日後に迫った小惑星マイアの激突を目前に荒廃していく世界で、すでに前作で警察を解雇されたパレスは個人的な事情から人探しを頼まれる。十数年ぶりに再会した、幼少時のベビーシッターだった女性に失踪した夫の捜索を頼まれるというのはずいぶんと薄い繋がりに思えるけれど、そういう希薄な関係性でも真面目に務めるのはこのキャラクターの魅力で、もっと言えば謎でもある。(巻末解説によれば著者もそのことには触れているらしい)

前作に登場した実妹のニコは今回大きなウェイトを占めていて、人探しそのものよりもニコに代表されるヒッピー的な「自治共和国」、陰謀論の蔓延と言った終末を前に急速に崩壊していく世界の在り様がかなりのパートで記述されていきます。物の不足は深刻で、本書の内容だいたい一週間ほどの期間でも、冒頭では極僅かのメニューを提供していたカフェがお湯しか出すものがなくなるとか、まあいろいろ。自転車で捜査に向かう主人公というのも、アメリカンミステリーにしては珍しいかも知れないね。

事件自体は非常にささやかなもので、ささやかな事件を無駄に複雑化させているようなきらいは、ちょっとあります。ただ読んでいてあるキャラクターの行動に(本書のどこにもそんな単語は出てこないんだけど)、ああこれはいわゆる「ジハーディスト」なんだなーと、そういう読解を自然にやっていた自分が、いささかテロリストに屈した気分である。そんな時代に書かれた小説ではあるのだけれど。

前回妙に思わせぶりだった政府機関に勤めるアリソンがまったく出てこなかったのは次回への布石かな?荒唐無稽と思われていた陰謀論にも何か実態があるかのような雰囲気もあったりで、最終作となる次の話も読みたいところです。今度は衝突まで一週間前ぐらいの時期になるとかで、ミステリーとか謎解きとかやってる場合じゃないって気もするんだけどな(w