ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ウィリアム・アイリッシュ「夜は千の目を持つ」

古典、ですね。原著刊行は1945年の、月日まではわかりませんが、おそらく執筆時期は戦時中のことでしょう。作中の年代設定は戦前のようですが(日本から輸出されたの生糸の話題が出る)なんていうかな、余裕みたいなものを感じます。

アイリッシュは相当大昔に「幻の女」を読んでいて、相当強い印象が残っています*1。あの名作のラストにあった鮮やかな変転がやはり頭にあったので、今回もそういうのをちょっと期待、あるいは予想かな?とにかく持っていたのですが…

ちょっと裏切られた気分、けれどもいい感じでした。いくら古典とはいえネタバレ避けるために詳しい記述はさけるけれど、謎が謎のままで登場人物も読者も不可解な立場に取り残される。ちょっと怪奇小説的なスタンスでもあり。いわゆる本格ミステリ全盛期よりも後の時代の作品だけれど、推理小説怪奇小説の垣根ってさほど明確ではなかったのか、むしろジャンル分けによる定義づけなど無意味だということかな。

サスペンスフルな筆致は70年経っても衰えることは無く、硬めの訳文に小さな文字でもとてもスピーディに読み進めることが出来ました。よい読書体験であった。

*1:実はそれ一作しか読んでいないんだけれどw