ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ミハイル・エリザーロフ「図書館大戦争」

図書館大戦争

図書館大戦争

ストーリーを説明するのがちょっと難しいのでまずamazonから内容紹介を引っ張ってくる。

秘密の力を持つ7つの本をめぐり、図書館・読書室の暗闘がはじまる。

叔父の遺産を処分するため、青年アレクセイはウクライナからロシアに向かう。そこで出会ったのは、亡き叔父を司書とする「シローニン読書室」の面々だった。
忘れられた社会主義時代の作家グロモフの7つの本(「記憶」「力」「喜び」「忍耐」「権力」「憤怒」「意味」)。恐るべき力を秘めたこれらの本を、「図書館」・「読書室」が血で血を洗う決闘によって奪い合う。
知略に富んだ慈悲深きマルガリータ、鎖分銅の使い手チモフェイ、長剣の名手ターニャ、ルーブル硬貨で鎧を仕立てるグリーシャ……。古強者揃いのシローニン読書室は、やがて強大な「図書館」との抗争に巻き込まれていく。
ソ連崩壊後の世界に生きるひとびとを活写した驚異のスプラッターノヴェルとして、賛否両論ありながらロシアブッカー賞を受賞した問題作、ついに邦訳なる! ! !

すべてのカギとなるを著わした作家グロモフというのが旧ソ連時代のパッとしない社会主義リアリズム(?)作家で、内容そのものは面白いものでもないしほとんど絶版・廃棄処分されてるところはユニークだった。内容に関わらず現存する7つのを読んだ者は、それぞれの書物に応じて能力を得る。それが「記憶」「力」「喜び」「忍耐」「権力」「憤怒」「意味」の能力ではあるのだけれど、空を飛んだり手から光線がでるわけでもなく、精神を強化されること、強化された精神が人の行動を強化すること、地味と言えば地味だけれど、例えば「記憶の書」を読んで得られるのは多幸感に満ちた記憶だけれどそれは偽の記憶で、時間がたてば効力が切れる。読後感に浸り続けるためには読み続けなければならない、設定としてはそんな感じか。稀覯本を巡って争ういわば私的な地下組織の闘争で、ソ連の崩壊とロシアの混沌、マフィア組織の暗躍する社会、そういう世相がバックグラウンドにあるのはすぐに理解できる。複数の本を所持し多数のメンバーを擁する「図書館」と、一冊の本を核に少人数が集う「読書室」と呼ばれる組織同士の抗争を描いたような内容で、叔父の死によりある「読書室」の司書の地位を相続した主人公が容赦なくその渦中に投げ込まれ、飲み込まれていく様をグロテスクに描く…とでも言えばよいか。
主人公が最後に行きつく処遇にはとあるロシア文学を思い出したけれど、それはネタバレなので伏せます。主人公がウクライナ人であること(ロシア人ではないが且つてはソヴィエト連邦国民だった)ことは重いのだろうなあ。「村ソヴィエト」があっという間に崩壊してしまうところとか、うん、これはかなりへヴィだ。

しかし「権力」を描くとレーニンとスターリンの戯画であることを避けられないのは、ロシア社会の宿業と言えるのかもしれません。

あとがきで翻訳者が恐縮しているのだけれど、本書のタイトルは有川浩の「図書館戦争」とそっくりです。原題は「司書」であって、翻訳がこの邦題になるには「紆余曲折あっ」たそうですがまあ営業サイドのあれとかそれとかでしょう。全然違う内容から、ロシアと日本社会のに対する価値の違いを考えても面白いかもだ。

この本を読んだそもそものきっかけはニコニコ生放送「【長い、重い、難しい?】文学からみるロシア 沼野充義×松下隆志×池澤春菜」を視てのことでした。あれは面白かったですよー。