ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ハラルト・ギルバース「ゲルマニア」

 

ゲルマニア (集英社文庫)

ゲルマニア (集英社文庫)

 

 

ナチスドイツ統治下でのハードボイルドミステリーというのはそれほど珍しいものではなくて、あとがきにもいくつか先行作品が挙げられています。ナチスドイツが架空の勝利を挙げた後の世界とか、ナチスドイツ統治下のパリとか舞台は色々あるけれど、それでもやはり戦時体制真っただ中の1944年ベルリンを舞台にした作品を、戦後生まれのドイツ人作家が著わすということには並々ならぬ意味がある、ような。切り裂きジャックを模したような連続殺人事件の、犯人のキャラクターにはたぶんドイツ人ならではのこう、ね。

主人公は戦前は警察勤務でナチス政権以降は迫害されていたユダヤ人のオッペンハイマー警部、妻がアーリア人であったためにかろうじて収容所送りを逃れていた彼が、その経歴を買われて武装親衛隊の事件捜査に引きずり出されるという展開です。武装親衛隊がなんで殺人事件の捜査なんてやってるの?という疑問にはそれなりに回答が用意されているけれど、不慣れな仕事に戸惑うフォーグラーSS大尉との間にいつの間にか奇妙な友情が…というのもまあお約束の展開ではあります。

ラストには事件が解決してオッペンハイマーは「自由」を得る。ではその自由とはなにか、というところが、これまでに読んだ類似作品のどれよりも、しみじみ感じ入るところではあります(いちおうハッピーエンドですよ)

 

ところで、あとがきには触れてなかったけれどナチスドイツ統治下でハードボイルドミステリーと言えばフィリップ・カーのいわゆる「ベルリン三部作」でしょう。本作はフィリップ・カーが三部作で敢えて空白にした期間が舞台で、本文のそこかしこに意識したような人物が配されてるような気がするのだけれど、あとがきでは特にベルリン三部作には触れてないのだよなーうーむ

 

関係者の自宅に聞き込みに行ったら「そのお宅は2週間前に空襲被害に遭って本人もどこかに行っちゃったよ」みたいな展開が頻出するので、戦時下の犯罪捜査は大変であるw