ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

キャスパー・ワインバーガー他「次なる戦争<ネクスト・ウォー>」

 

次なる戦争 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

次なる戦争 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

  • 作者: キャスパーワインバーガー,ピーターシュワイツァー,Caspar Weinberger,Peter Schweizer,真野明裕
  • 出版社/メーカー: 二見書房
  • 発売日: 1998/08
  • メディア: 文庫
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これは、まあ笑っていい本なんだろうな。レーガン政権時代に国防長官を務めたワインバーガーがクレジットされ序文をマーガレット・サッチャーが寄せているというのは冷戦おじさんホイホイぽいけど、実際のところは名義貸しでしょう。原著は1996年刊行で湾岸戦争後、クリントン政権がちょうど2期目を始めたころの出版です。そのころアメリカは国防予算を減少する傾向にあって、それに反対する立場で書かれたシミュレーションというかプロパガンダな内容ですね。

 

冷戦が終わって、地域大国の時代とか地域紛争が頻発するのではないかとか、そんなことが推測されていた時代。199X年から2007年にかけて、朝鮮半島、イラン、メキシコ、ロシア、そして日本と次々に起こる戦争に対して予算も人員も不足している米軍が辛酸を舐めアメリカの国力・国威がだんだんと退潮していく様を描いてますが、まー登場人物は薄っぺらいし、個々の章で描かれる戦闘や兵器の様相はまるで実感を欠くものだし、そこらじゅうでパカスカ核弾頭は炸裂するしで読んでて辛い。ロシアや日本あたりになると特に理由もなく急に武装が充実して急に戦争をはじめているし国連とか一般市民の世論とかそういうものは一切存在しない(笑)

 

核武装した日本が7隻の航空母艦と高性能な新型戦闘機を中核とした夢のような機動部隊で台湾・フィリピンそしてブルネイあたりを手中におさめて西太平洋を版図とすべく攻略を開始する最終章は

 

節子それ次やない、前の戦争や。

 

安っぽく危機を煽る内容でテロリストグループも出てくるけれど、それらは皆国家の下部機関として活動する。現実に僕らの世界が直面した2001年以降の、暴力と政治活動の自由化と規制緩和が劇的に進行した「軍事の新自由主義」な時代は到底予測などできなかった内容で、いわゆる「将軍は前の戦争を戦う」が観察できる、ある意味では貴重な例かも知れない。

 

この本はかなりレベルの低い内容ではあるんだけれど、世に「シミュレーション小説」があふれていた頃は、それらの作品が行っていたシミュレーションなど所詮は作者の願望に小奇麗な装いを纏わせたに過ぎなかったんだろうなと、今更ながらに述懐するところです…