ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

クリスティアン・ウィルマー「鉄道と戦争の世界史」

 

鉄道と戦争の世界史

鉄道と戦争の世界史

 

 19世紀から20世紀にかけてのおおよそ100年間の様々な戦役で、鉄道がどのような役割を果たしていたかを編年的につづった1冊。鉄道というのは近代文明社会の大動脈であるからして、近代文明社会が激突すれば動脈のように重要な働きを示すものです。このテーマで1冊まとめたものってなかなか無いよな(もちろん個別の戦闘や運用、装甲列車写真集みたいなものはありますが、歴史概説書というのは貴重だ)。とはいえ近代戦で鉄道が果たした大きな役割は兵站と補給で、この分野ではマーチン・ファン・クレフェルトの「補給線」が名高すぎる存在であって、本書でもかなり参考・引用されています。

こと趣味的な話で言うと鉄道趣味では軍事分野はかなり傍流で、軍事趣味でも鉄道というのはまあメインストリームではないでしょう。でも軍事と鉄道というのは人類の歴史の中で強力に連結されていた時代があって、それぞれの時代と戦役で軍事がどう鉄道を利用したか、鉄道が軍事にどんな影響を与えたか、そのあたりは自分がまったく不勉強なもので結構な知見を得られたように思います。鉄道の軍事利用が最高潮に達したのは第一次世界大戦の時期なのだけれど、その後の第二次世界大戦においては既に旧式なシステム(なにしろメインは石炭で動かされる蒸気機関だ)であったために活用された、主力兵器と燃料を奪い合うことが無かったというのは、なるほど言われると納得する。

19世紀の帝国の時代にあっては鉄道線路を敷設することが既にひとつの軍事戦略であって、その辺は現代の日本の平和な鉄道利用者には驚くべきことなのかも知れません。

というわけで「シンカリオン」好きは物は試しに読んでみたらどうであろうか(笑)