ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

古処誠二「生き残り」

生き残り

生き残り

 

古処誠二も最近はすっかりビルマものばかりになってしまったような印象がありますが、*1今回もやはりビルマもの、インパール作戦失敗後の撤退行における軍隊と兵士、組織集団と個々人の在り様を描くものです。イラワジ河の渡河点で丸江一等兵と戸湊伍長の二人が出会った「森川」なるひとりの兵隊の不信と謎の解明を、丸江の視点で描く「現在」と森川上等兵の「回想」を交互に繰り返して叙述するミステリ仕立てのスタイル。この視点交錯を利用してあるひとつのトリックが用いられているのが本書の要点なのだけれど、感のいい人は読んでいて途中で気が付くと思う(少なくとも自分は気が付いた)。それはまあ、良いのですが、なぜ森川上等兵がそのような行為に至ったかという動機が弱いというかお話のためのお話だなというのが正直なところです。むしろ戸湊伍長が何故執拗に森川を問い詰めるのか、という丸江視点での謎解きの方が主題としては面白かった。

どちらのパートも「三人称」の視点の取り方ひとつで謎の提示と解明を行っていて、記述そのものは実に面白かったですね。そういう読み方もどうかなとは思いますが。

*1:個人の印象です