ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

藤田昌雄「激戦場 皇軍うらばなし」

激戦場 皇軍うらばなし

激戦場 皇軍うらばなし

なんか歯切れの悪い文章が気に入らなかったので改稿。

旧日本軍というのは実に貧乏な軍隊でありました。なぜなら大日本帝国というがこれまた貧乏な国家だったからであります。もう少し裕福な軍隊ならもう少しマシな戦争が出来たのかも知れないけれど、その為にはもう少し裕福な国家でなきゃイカン訳で、だとしたらそもそも戦争は起こらなかったかも知れない。

本書は旧日本陸軍の、他に余り取り上げられないような「実態」を赤裸々に――かつ、冷静に――解説している。機械化の著しく遅れていた(と言っても米軍以外はどこも似たり寄ったりなのだが)日本陸軍が、例えば火砲の運搬に人力運送を多用していたなんて話を批判も揶揄も抜きで「斯様であった」と平静に説明する。戦場の裏方みたいな話がてんこ盛りで、なかなか見られないような写真・資料も多い。「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」という標語があったそうだが、物資の乏しい状態でどのように創意工夫を図ったか。陸軍制式背負子「背負子−甲」ならびに「背負子−乙」の作成図面とか、隠密渡河訓練に於ける写真で「水泳キャップにフンドシ一丁」の人たちが血相変えて軍刀や小銃持ってる写真とかいや、驚きである。

圧巻なのは食料の自給自足を扱ったパートでニューギニアもといニウギニアに於けるサゴヤシの調理方法やアッツ島での漁労等々、現地自活が前提の兵站計画って一体。(と、今なら言えるのだろうが当時はそれが普通だったのだろうな)
面白いところではインパール作戦直前、ビルマ方面に在った第十八師団によるジャングルでの食用可能植物一覧なる表が掲載されていて、巷間言われるほど現地植生に無頓着ではなかったのか、とも。*1
末期になれば兵器も自給自足であり「竹槍」の作成マニュアルも収録されている。もしあなたが自作小説中にリアリティのある「竹槍」を登場させようと思うならば必読である。「一般用竹槍」ならば直径は4cm、全長1.7〜2mの竹を用いるが「少年用竹槍」ならば直径3cm全長1.5m程度の小型のものを使用する。先端は20度の角度で刃をつけ、焼き入れを行い硬化に努める云々。

卵の殻に野生の唐辛子粉末を詰めた「辛子玉」を近接戦闘や対戦車攻撃用の「目つぶし」兵器として製造した、なんてことはそれが果たして近代国家の軍隊がやることなのかと小一時間(ry

思うに、あの戦争は悲惨であった。それは侵略・征服された諸外国の人々に限らず、また攻撃され蹂躙された後方の民間人に限らず、広く戦線に展開し各所で苦難を続けた兵士にとっても悲惨であった。いま、我々が戦争の惨禍を思い、不戦を誓うことが出来るのも、このような悲惨な実態があればこそであり、斯様に貧乏な国家の貧乏な軍隊が分相応な大戦争を始めなければそもそも日本全体に平和主義(主義なのか?)は広まらなかったかも知れないなーとか、思う。

最後に著者、藤田昌雄のウェブサイトを紹介しておく。「竹槍作成マニュアル」はこちらでも紹介されているので興味が在れば。

http://www.horae.dti.ne.jp/~fuwe1a/index.html

メイドさんで巡る陸軍の世界」は必見(笑)

*1:もっとも第十八師団は直接インパール作戦には参加していないが