ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

マイケル・ムアコック「白き狼の息子」

白き狼の息子―永遠の戦士エルリック〈7〉 (ハヤカワ文庫SF)

白き狼の息子―永遠の戦士エルリック〈7〉 (ハヤカワ文庫SF)

エルリック新三部作もしくはフォン・ベック三部作、一応の完結編。極めて現実的な存在であるベック伯は順当に年を重ねて孫を持ち、現実と幻想の端境に立っているような妻ウーナは若かりしまま、そして極めて幻想的な存在であるエルリック敵にとっ捕まって帆柱にハリツケにされているのであった…

書店で表紙を見て思わず「ちっぱい!」と呻いたように本作の主人公はベックとウーナの孫娘ウーナッハ嬢である。御年未だ十二歳って小学生ですよ奥さん!!信じられん、ムアコックの小説といえばフツーは主人公は自虐的で自制的で自己中でヤク中だったりするのにっ!!!
実にイマドキなガールであるところのウーナッハ嬢はケータイ持ったりネットでメールしたりするんである。重ね重ね言うが信じられない…
とはいえそうそう無事に話が進むわけでもなく、例によって例の如く世界を我がものにせんとするゲイナーとクロスターハイム(負け犬オーラ満載w)の手により異世界に紛れ込んだウーナッハは天秤と剣と「ルーンの杖」を巡る陰謀へと流されていくのであった。

これまで端役として登場していた人語を解する博学なキツネ、ルニャール卿が今回大活躍。少女とふわふわした毛むくじゃらの生き物コンビというのはこれまで幾度も描かれてきたと思うがこれムアコックですよ?何が起こったんだ、やはり宇宙を支配するのは萌え要素か。
またストーリー後半部ではもう一人の「永遠の戦士」ホークムーンの世界へと舞台が移る。「ルーンの杖秘録」とは違ってグランブレタン帝国*1が勝利しヨーロッパの大部分を支配している恐るべき専制政治世界であっても、

イマドキのガールの目には精々テーマパークぐらいにしか映らないのであった。な…

わたしはほとんど吹きだしそうになった。「あなたたちって、ふつうの動物以下になろうと努力しているみたいね。動物みたいな身なりをして、動物以下のふるまいをする。そんなかっこうをして馬鹿みたいだと、だれにも言われたことがないの?」わたしは鼻をふんふんやった。「そりゃ、ひどい匂いがしても当然だわ」

宮崎アニメだったらこんなシーンは百回ぐらい見てきた。しかし何度も言うがこれはムアコックなのだ。エターナル・チャンピオンなのだ。こんな永遠の戦士は

イイ!と思います。

このシリーズ通じてムアコックの作風が随分と変化したことが伺える。それはやはり収穫なのである。ラストシーン近くでゲイナーと決着をつけるべく、エルリックが「剣」を召喚する場面などはやはり圧巻でそれらしい。「この剣だけが変わらぬものだ」*2いやまったくその通りです。

タイトルにある「白き狼の息子」が何者なのか、ウーナッハとどんな関係があるかは…いや、グランブレタン帝国の連中って確かに昔っからこんなんだったよなあ。失礼ながら大爆笑です。

*1:全ての人間がグロテスクな生物の仮面を被っている「暗黒帝国」。字の如くに戯画化されたイギリスである

*2:当該場面の台詞ではない