- 作者: カート・ヴォネガット・ジュニア,伊藤典夫
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1979/07
- メディア: 文庫
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ぼくがこれまでの人生に於いてもっとも影響を受けた作家のカート・ヴォネガットが先日物故した。そういうものだ。追悼の意を込めて再読。
ヴォネガットの諸作でも傑作と呼ばれるものは何度も読んだものだが、この「猫のゆりかご」は高校時代の初読以来これまで読み返してなかったな。なんでそうなっていたのかは読み返してすぐにわかった。これ滅茶苦茶気が滅入る話だったんだ。
内容は冒頭に掲げられている「ボコノンの書」*1からの引用で大体説明できる。
「<フォーマ>(*)を生きるよるべとしなさい。それはあなたを、
勇敢で、親切で、健康で、幸福な人間にする」*無害な非真実
流石にこれではよくわからん、という向きが多いだろうから著者自らが語ったあらすじを引用。
人間のことなどちっともかまわぬこの専門ばか老人は、室温でも溶けない氷の製法を発明します。老人が死ぬと、何人かの阿呆どもがその――アイス・ナインとわたしが名づけた――物質を手に入れ、とうとうその一部を海に投げ込み、その結果、地球上の海や川の水が凍り、われわれが知っている地球はおだぶつになります
さっぱり救いがありません。いやヴォネガットの作品って救いがないのが多いんだけど、大抵はその先に救いがあったり、笑いがあったり、ポジティブだったりもするもので*3。
この作品の本当に救いのないところは、実はタイトルにある。猫のゆりかごすなわち「CAT'S CRADLE」とは「あやとり」のことである。輪っかに結んだひもをつかって、ひとはバッテンや何やらの中にゆりかごを見たり、猫を感じたりする。ところが真実はそうではなくて――
ニュートは椅子の上で身体を丸めたままだった。彼は絵具にまみれた両手を、まるでそこに猫のゆりかごがかかってるみたいにつきだした。「おとなになったときには、気が狂ってるのも無理ないや。猫のゆりかごなんて、両手のあいだにXがいくつもあるだけなんだから。小さな子供はそういうXを、いつまでもいつまでも見つめる……」
「すると?」
「猫なんていないし、ゆりかごもないんだ」
無害な非真実を、生きるよるべとしよう。どれほど嘘くさくても、そこには害はないのだ。
…気が滅入りもする訳だ。