ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

布施勝治「スターリン線破れたり」

どうせamazonでも楽天でも取り扱いなどないだろうからリンクは貼らない。なにしろ昭和十六年九月一日発行の本だ。知人がヤフオクで入手したのを借りて読む。スターリン線あるいは「スターリンライン」というのは第二次大戦当時ソ連が国境防衛に構築していた要塞地帯のことで、あまりにアッサリ突破されたのでフランスのマジノ線やドイツのジークフリート線に比べると知名度は異様に低い。実在さえ疑われるとゆーのは言い過ぎだろうがw

本書は独ソ開戦初頭、1941年晩夏あたりまでの戦況を伝える一種のルポルタージュなのだけれども、内容の多くはそこまでに至るソ連の国内状況、外交政策の変遷などに重点を置いて書かれている。同時代に書かれたものだから当然の如くに視点は同時代的で、我々が歴史として顧みる多くの事柄が「現代」として描かれるのは興味深い叙述ではある。
著者はヨーロッパ通の新聞記者(大阪毎日新聞編集総務だってさ)でスターリン以下多くの政治家と直接会見し、その際の各人の印象なども面白いものだ。特に印象が強いのはスターリンが一連の粛正を行う過程で失脚していったソ連の有力政治家が幾人も挙げられているのだか、当時どれほど有力であった人間であっても半世紀以上経てば顔も名前もさっぱり知られてないということか。一般的にはトロツキートハチェフスキー以外の犠牲者って十把一絡げな気が。*1歴史に名を残せない事とは恐ろしいものであるなあ…

トハチェフスキーが実際にクーデターを計画していて未然に発覚した、とかスターリンの政策が変化したのは三番目の妻がユダヤ人だからだとか、現代ではちょっと首肯できない言質が多々ある*2のも時代かな。スターリン蒋介石をほぼ同様に扱っている所などは現代では却ってやり難い事柄かとも、思う。

*1:エヌキーゼ、ジノヴィエフカーメネフスミルノフ、クレチンスキー、ラコフスキー、カラハン等の人物が挙げられているが君たち誰!?いや、自分が無知なのはともかくとして、だ

*2:とはいえ著者の視点その物は特に軍国主義的であったり植民地政策的であったりする訳ではない。ふうむ