ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

谺健二「殉霊」

殉霊

殉霊

かな〜り久しぶりに再読。

どこまで信を置いて良いのかわからないことなのだけれど世に「推理小説」だの「探偵小説」だの「殺人事件小説」だのが興隆したのは第一次世界大戦で西欧世界の人間が無駄に死にすぎたからだと聞いたことがある。あまりに無意味に人が死にすぎるので、却って少なからずそこに意味やら価値やら謎やらを求めようとして人死にを昇華させたものが推理小説なのだ、という主張でこれはミステリー好き且つ軍事オタクであるという人間には非常に受けが良い。

「殉霊」は大体そんな話だった。アイドル歌手、矢貫馬遥の謎めいた自殺と死体消失、更には不可解な遺体発見の「謎」よりもそこから連鎖していくファンの自殺に秘められた「謎」にどんな意味があるのか。興信所調査員の緋色翔子は実の姉をアイドル歌手、岡田有希子の自殺に連鎖するかのように喪ったという過去の不条理、謎めいた喪失感覚を埋めるかのように事件を追い、そして…

物語が展開するに連れ事件のもつmysteryは余所に追いやられ人のもつsuicidalを解き明かす方が遥かに重要だと言う、変わった作品。tanatos重視とでも言えばよいか。

主人公の行動原理がかなり歪んでいるので結果行動そのものが不条理だったり、今にも真実にたどり着きそうな場面で突然○○○○○が起こるという不条理*1などは作品の本格ミステリー性をあ〜妨げる?ような感が持たれるのだけれど、多分その決して解き明かされない不条理を提示することが面白さ…かな?

昔とあるミステリー作家が、人間というものは謎めいた存在なので、人間を扱う限り全ての小説はミステリー小説なのだとかなりの暴論を吹いたことがあって、それを目にした時は相当反発したのだけれど、なんとなく首肯できそうな、そんな作品である。

すごく…鬱になる。

*1:谺健二は○○○○○作家である