ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

映画「非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎」を見てきました。

公式サイトはこちらhttp://henry-darger.com/

ヘンリー・ダーガーはしばしば「アウトサイダー・アート」の代表者として挙げられますが、実際のところアウトサイダーアートというものは「正規の美術教育を受けていない作者による芸術作品」なのだそうで、必ずしも神経疾患や精神障害などによるものではないとのことです。割と重要ですが見過ごされがちな事実ですね。

ここまで反社会的というか非社会的というか、ともかく社会と隔絶してひたすら内向きに小説を書き絵画を制作するだけのエネルギーはやはり賞賛されてしかるべきなのだろう。ダーガーが果たして社会がカテゴライズしたようにある種の知的障害者だったのか、それとも隣人達が声をそろえて言うようにちょっと変わった性格な善意の変人だったのか。本編はその問題に触れこそすれ、さほど重大には扱っていない。ただひとりの隣人(下宿の大家さん)が言っていた言葉で

「金持ちならば変人で、貧しければ狂人なの。彼、貧しかったから」

…さらっと言ってたけどこれって凄く真理をついてるよな。

個人的には大抵「絵画」としてしか取り上げられない「非現実の王国」のストーリーを説明してくれたのが有り難かった。あれマルチエンドシナリオなんだぜ!いやまぁ結末が二通りあるってだけなんですけど…

自分自身と親友が善良なるキリスト教国の将軍として登場し、子供を虐待する邪悪な王国の将軍は子供時代のいじめっ子が実名で出てくる。それなりにイタイひとでそりゃ死ぬまで秘密にしたがるわけだなwと思わないこともないが、でもそれは「おはなしをつくること」の根幹に潜んでいそうな気もするんだな。

ライフワークって多分こういう事なんだろうと思いますね。むかーしとあるマンガで――タイトルも作者も良く憶えているがここでは挙げない――「だれそれのライフワーク、遂に完結!」などと煽り文が載っていて、いや「ライフワーク」が完結しちゃうのはいろいろマズイんじゃないかと吹きだしのを思い出した。

不平不満、怒りの対象として明確に「神」を持ち、決して信仰は捨てなかったという宗教心はちょっと面白かった。どれほど現世に否定的でも神は死んだりしないのか。この幻想譚での戦争技術が南北戦争レベルで停滞してるのは現実世界の科学技術と断絶しているというよりは近代アメリカ人の原風景的なものなんだろうと、思うのですが。

まあともかくとして、誰に見せるわけでもない数百枚の絵画と誰に読ませるわけでもない15000ページの原稿に自分はひどく動揺しまた大変に憧憬を憶えるのだと、そういうことだな。

余談。

絵画をその作者に無断で動画化してしまうのは正直どうよと思わないことも無いのだが、考えてみると当人は家族も著作権代理業者も持たないほどに世間と隔絶していたので文句を言えるような筋合いではあるまい。