ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

カート・ヴォネガット「追憶のハルマゲドン」

追憶のハルマゲドン

追憶のハルマゲドン

いや、まあ軍事小説などではないんだけど、ドレスデンや終戦直後など「兵隊小説」風のものが多かったので。
没後刊行された一冊で、終戦直後ヨーロッパから家族宛てに書かれた最初の手紙、生前最後の講演原稿(死後代読)などを含むが主たる物は「未発表原稿」の類。習作というか没原稿か。存命中は絶対に日の目を見るようなことが無いようなものを「彼が死んだから」という実に即物的な理由で出版されてしまう作家って難儀な生き物だな。「ロジャーのやつにけつの毛まで抜かれた」*1ようなものか。ヴォネガットが生きていたらさぞウイットに富んだ言葉でスープストックにされる鶏ガラの気持ちでも書き綴ってくれたことだろうに、返す返すも残念である。

収録された小説群では「略奪品」という小品が良かった。もしヴォネガットが捕虜時代やドイツ降伏直後といったどこか空虚な人物・時期を扱う兵隊小説とでも言うべき路線を続けていれば、毛色の変わったロアルド・ダールのようにはなれたかも知れない。しかし、そうはならなかった。とてもラッキーなことにオーブンの中には丸ごと一羽のローストチキンが入っていたと言う訳で、我々はそれをたいらげて、残った骨でスープを作ろう。

最後に残るのは…それはきっと味でしょう。

 どこから小説のアイデアを得るのか?
その質問はベートーヴェンにすればいい
 彼はドイツでほかのみんなのように
   のらくら暮らしていたが
    とつぜん体のなかから
    あるものが湧きだした
     それは音楽だった
   わたしもインディアナ州
    ほかのみんなのように
   のらくら暮らしていたが
    とつぜん体のなかから
    あるものが湧きだした
   それは文明への嫌悪だった*2

*1:「タイムクエイク」asin:4150114331191p

*2:巻末に掲載された詩