ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

R.キャンベル編 T.E.D.クライン他「新編 真ク・リトル・リトル神話大系7」

新編 真ク・リトル・リトル神話大系〈7〉

新編 真ク・リトル・リトル神話大系〈7〉

終に完結。永らく待たされたものだがまずはこのことを言祝ごう。新たに作品群を発表年代順に編み直したことにより、真に「大系」足り得るモノに成ったんだなと感慨も深い。流れと変遷、拡大などを俯瞰的に見られるような気がする。

この歳になるとクラインの「角笛をもつ影」がしみじみ面白いなァ…。昔日「ラヴクラフトの弟子」であった若手作家が老境に至るも未だ「ラヴクラフトの弟子」でしか無い*1ことに寂寥を感じながら、やがて小説作品内の出来事に過ぎなかった怪異が実生活に姿を現し、まるでラヴクラフト作品の登場人物のような最期を待ちわびる、窓へと。

他にも往年の菊池秀行ばり(なんて書くと順番逆なんだろうなw)なガンアクションと旧支配者の意外な(?)正体が楽しいD.ドレイクの「蠢く密林」、70年代ティーンズ青春小説の筈が気がついたら直球ストレートな神話作品に変貌を遂げるR.キャンベル「パイン・デューンズの顔」など、作品数は四本と少ないが良い物が多い。*2やっぱクトゥルフ神話の面白いところはパラダイムがシフトするところだよーと、声を小にして主張したいw

巻末エッセイは満を持しての朝松健!で非常に嬉しい。今回一連の復刊で何故かこの人物の名を目にすることが無いのを訝しんでいたもので、いあいあ一安心。旧版刊行前後のエピソードが主体で、一時期パルコブックセンターの幻想文学コーナーはギーガーなどの名状し難い画で装幀された函入りの国書刊行会の本が棚の殆どを占めていたなあと懐かしく思い出すことしきり。思えば自分が怪奇幻想小説を読み出した際には随分と朝松健御大にお世話になった*3ので、これからも末永くのご活躍を願いたいものであります。そんな日本のクトゥルフ業界をずっと見続けてきた流石の御大もニャル子さんには声を上げて驚いたそうで、すごいぞニャル子さん(笑)*4

シリーズ全般を通じて初読当時よりも随分と楽しめたのは昔ほどダーレス調のもの、余りラヴクラフト風ではないものを心中排除しないようになったからかな、と思う。今回の真クリでも1、2巻を読んだ辺りではまだそこまで達観していなくて、だから感想を挙げていないんだけれど、なんだか昔は「ラヴクラフト神話」とそれ以外もしくは「ダーレス神話」を必要以上に対立させていたような気がする。誰それの仕業です…とか某集団が…とかでは全然無くて、出版物全体の活字と行間にそういう気運が滲み出していた…ような。でも今は違う。現在はもっと多様で混沌でなんでもありだ。そういう時代、そういう状況、そういう風に、成った。それは素敵なことだ。

その上で編集者でもアンソロジストでもなく、作家としてのオーガスト・ダーレスの良さというものがちゃんとあるんだなと、実はこのことに気がついたのは最近のことなんだけれど、それがどこにあるのか、それを何で発見したのかもブログには挙げずに済ませていたのだが…

でもそれは内緒のままにして行こう、「あとから来る者」へ。

*1:モデルはF.B.ロングだそうだ

*2:じゃあ残った一つはどうなんだと誰もが思うであろうが「アルソフォカスの書」はそのゴニョゴニョ

*3:富士見ファンタジアの「マジカル・ハイスクール」復刊しないかなー

*4:http://www.ota-suke.jp/news/31423 いかんちょっと這い寄られたくなってきた