ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

マイクル・コーニイ「ハローサマー、グッドバイ」

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

これは恋愛小説であり、戦争小説であり、SF小説であり、さらにもっとほかの多くのものでもある。舞台は異星人の住む惑星であり、そこにはひとりも人類がいないので、面白い物語を語るために、いくつかのことを仮定した。
舞台となる惑星は多くの点で地球と似ていないわけではないので、作中の異星人は人間型(ヒューマノイド)であり、そして人間型なので、人間と同じような感情や弱さに動かされている、ということにした。異星人たちの文明は、地球の一八七五年とよく似た発達段階にあることにしたが、この星が持つ特別な性質によって、この異星文明と地球のものとには、いくつかの大きな相違点がある。
こうした仮定を行ったのはすべて、この物語が語るに価するものであり、ほかにはどんな風にして語っても、恋愛小説であり、戦争小説であり、SF小説であり、さらにもっとほかの多くのものでもある――すなわち、わたしがそう望むとおりのかたちのままではなくなってしまうからだ。

冒頭掲げられた「作者より」と題する一文。これだけ書いておけば必要にして十分な気もするが、「ハローサマー、グッドバイ」は恋愛小説であり、戦争小説であり、SF小説であり、さらにほかのもっと多くのものでもあり、<ここ大事です>とても、おもしろい。

幸福と不安に苛まれる恋愛と、茶番のように迫る戦争の影と、それよりもっともっと過酷な天体の運行という「現実」。アシモフの「夜来る」とかアニメの「ラストエグザイル」とか、ああいった大仕掛けを好む方なら是非にと薦める。70年代のイギリスSFらしく終末論フィーバーで*1、70年代のイギリスSFらしく階層社会への強烈な皮肉に満ちている*2

ブラウンアイズの強さは可愛いしドローヴの弱さは愛すべきことだと思われるが、それでも俺はロリンのような生き方が良いなぁ、とか思う。

あとがきで「SF史上有数の大どんでん返し」とされているラストの解釈が正しいのかと不安になって、いくつかのレビューを見てみた。どうやら合ってたようでそれは小市民的に安心したのだけれど(笑)ようするにこのラストは「セカイ系」とゆーやつではないかい、と言われてなるほどなるほど。

「リボンはだんだん大人になって、前より分別がついてきたんだ」ぼくはいった。
「それはぼくたちみんなにいえる。そしてこの夏のあと、ぼくたちはだれひとり、前と同じじゃなくなってるだろう……それがこわいって思うところもある。すごくたくさんのものを、すごい早さで失っているような感じがして。得たものも、たくさんあるけどね」ぼくは急いでつけ加えた。

登場人物はほぼ皆例外なく近視眼的で、自己中心的で、愚昧ですらある。でもその稚拙さを愛したいものだなと、そんな風に感じた。

こんな話を30年以上前に訳出してたんだからサンリオSF文庫ってやっぱ濃ゆいなあ。

*1:それは偏見です

*2:格差が問題視される社会は階層が問題視されない社会よりはずっと幸せだ