- 作者: ハンス・オットー・マイスナー,松谷健二
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1972/08
- メディア: 文庫
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再読。これは是非読み直して紹介せねば!と半ば発作的に手にとってレジに走った一冊。まあ100円こーなーだった品。著者マイスナーは親日派のドイツ人作家で父親はナチス政権下で国務大臣も務めたオットー・マイスナー。本人も四年に渡る駐日大使館勤務を経て東部戦線で機甲部隊中尉として従軍した経験を持つという、そんな経歴の人物による過酷な自然のなかで男同士の対決を描く軍事冒険小説。などと説明するとなにやら凄そうだが、まともなのはそこまでで、中身の方はものすごくヘン。おかげで一部の層にカルト的な人気を誇る*1
なにしろ出てくる日本軍のディティールが全部マチガあーいやでたらめちゅーかその、正しいところがひとつも無いw1942年に日本軍によって占領されたアリューシャン列島アッツ島の、その2年後と言うから1944年か。史実ではとっくの昔に玉砕している筈の島に「ビルマの電撃的占領で日本全土に武名をとどろかした」山田高堂提督(誰ですか)が訪れ、長距離四発爆撃機「敦賀」(知らないなあ)の大部隊による米本土片道爆撃作戦を行うべく大量のドーザー、ローラー、コンクリートでもって3000m滑走路を作り上げ(なにその夢みたいな建設能力)、作戦遂行のため人跡未踏のアラスカ奥地に気象報告の任を帯びた特殊部隊を派遣するのであった。
かくして貴族の血を引きサムライの精神を持ち、オリンピック十種競技の銀メダリストである日高遠三大尉は帝国軍人9名+手斧で熊を6頭仕留めた北海道の木こり1名+満州出身のオロチョン*2青年1名と共に双発爆撃機「本土」(はあ、そうですか)によって極秘裏にアラスカ山中に降下し、偽装網で鮭を捕らえて刺身や薫製にして自活するのです!白人なら音を上げるような粗食でも、元来魚食いの日本人なら耐えられるのです!恐るべし日本軍!です!!
映画「パールハーバー」なみに無茶な設定のオンパレードで、これが悪意に満ちた偏見ならばはいはい無知蒙昧で済ませられるのだけれどそうでもないのが 始末に負えない ユニークである。作者の筆は「狂信的な日本軍」を単純な悪役にする訳ではなく、礼節と信義を重んじ教養のある集団として描いている。しばしば「ハシを使って食事をする」ことが描写され、どんな状況下でも身につけられた教育とマナーは忘れないw対するアメリカ側はベテラン野獣監視員アラン・マックルイアとゲリラ戦の名手ウイリアム大尉に率いられたアラスカ・スカウト。どちらの側も善や悪ではなく、それぞれが信じるもののために、互いに死力を尽くして戦うのでアリマス!!1111!!
途中の過程は全部すっ飛ばして(オイ)クライマックス、部下を失い仲間と離れ、遂に一対一で向き合うことになった日高大尉とマックルイア。長期に渡る決死行のなか、原住民に身を変え(なにしろエスキモーはモンゴロイドだからな)不意を撃とうとする日高大尉であったが、食事中についうっかりハシを使って正体がバレるとゆー文字通り噴飯もののシーンは屈指の迷場面として冒険小説界にその名を残すであろうとワタシは信じる!いかに上品な日本人とはいえ河原で串焼きにした魚を皿も器も無しにどうやってハシで食ったのか、そんな細けぇことはいいんだy(AA略)
結局ふたりは激闘の末、奇妙な友情で結ばれて終わる。生き残り、戦争が終わってしまえばお互いは尊敬すべき相手であって…と、なんだかんだ書いてきたけれど日本人受けする一本だと思うんだな。知られざるその…
ケッ作として。