- 作者: クリストファーマガウワン,Christpher McGowan,高柳洋吉
- 出版社/メーカー: 古今書院
- 発売日: 2004/12
- メディア: 単行本
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原題を「the dragon seekers」と云う。「ドラゴンを追う者はドラゴンになる」と言ったのは確かニーチェだったと思うがニーチェとは関係がない(あたりまえだ恐竜の本だ)。副題には「ダーウィンへの道を開いた化石研究者たち」とあって図書館のダーウィンと「種の起源」特集棚に置かれていた一冊…なのだけれどダーウィンはあんまり関係ない。関係があるのはギデオン・マンテルとかリチャード・オーウェンとかウィリアム・バックランドとかの人びとである。どうです、わくわくしてきたでしょ?え、こない??まーともかくそういった、恐竜関係の書籍や展覧会のパンフレットなどでは最初の1ページにまとめられたり精々「ギデオン・マンテル、イグアナを見てビックリ」のイラストで済まされてしまいそうなこの分野のpioneerたちのエピソードを描いたもの。19世紀初頭のイギリスを扱った本なのだが、どうしても脳内では森薫の絵柄で想像されて、困るw
これまで個別の人物の個別の業績としてしか認識してこなかった種類のものを、同時代に生きた同世代の人びとの功績として読めて素直に面白い。ある種の緩やかなサークル的(サロン的?)交友関係なのだけれど、そこはそれ19世紀の話なので、それぞれの属する社会階層の隔たりとか当時の労働問題などが交錯したりで、無邪気にアカデミズムだけでは割り切れない話なのだなと思わされる。それは例えば宗教伝承と自然科学がいまだ不可分な時代に如何にして「創世記」を否定せずに観察結果を矛盾無く体系化するかという問題だったりもするし、またメアリー・アニングという化石発掘「業者」のことでもある。この人は研究者ではない。恐竜に先行して研究されていた海棲爬虫類、魚竜や長頸竜(首長竜のことですね)の発見に非常に功績のある人だけれども、当時高い評価を受けていたわけでもなければ現在誰にでも知られていることもない(と思う)。自分は本書を読んで初めて知った。なんでそんなに無名なのかといえばズバリ女性だからで、どれほど貴重な発見をしても化石を売却して収入を得られこそすれ、当時女性に研究への門戸は開かれていなかった、とおお、やはり森薫の匂いが(マテ)
当時の出版物に掲載された銅版画なども掲載されていてこれまた楽しい。オーウェンによるメガロサウルスとイグアノドンの復元図とか当時の「リアル」はこれかーといたく興奮する。19世紀的な銅版画世界に描かれた恐竜は良くも悪くも想像力に溢れていて、これはこれで実に楽しいエデンの園だな。そして登場する人物の肖像画も多数掲載されているのだけれど、それによるとメアリー・アニングはエマさんどころかただのオバさ(ry*1
*1:朝日選書から「メアリー・アニングの冒険」asin:4022598395って本が出てるそうなので、いずれは読もうと思う