- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2009/07/03
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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比喩は卑怯な行為である。「森見登美彦の『宵山万華鏡』は万華鏡のようなお話です」と言ったところで何の説明にもなっていない。なっていないのにも係わらず実際のところそれは正しく、やっぱり「宵山万華鏡」は万華鏡のようなお話なのだ。
ひとくちに万華鏡と言ってもいろいろあって、自分が知っているのは文房具屋の店先に並んでいたプラスチックの円筒に千代紙を貼った子ども向け玩具な例のアレ、だ。内側にはプラスチックのビーズがいくつか入っていて、手の中で転がしてみると中の景色は千変万化する。ひとつとして同じものはみえず二度と再び同じことが繰り返されはしない。しかしながら構成要素は全て同一のセットで、その並び方や角度、光と影のあたりかた、そのささやかな違いが無限に広がる可能性を永遠に楽しんでいられるのが万華鏡というものだ。手放さない限りは。
「宵山万華鏡」って大体そんな話です。相変わらず筆の冴えは巧妙で、読み始めた当初こそアクの弱さ、薄口具合に閉口していたものが連作短編を読み進めるごとにだんだんと深みにはまっていく――ノイタミナの「四畳半神話体系」で森見登美彦を知ったひとには勧めやすい読み易さで、むしろ長年この著者読んでいるディープな中毒患者のほうが物足りなさを感じるかもだ。あのアニメに関しては原作好きとしては言いたいことがいろいろあるけど、浅沼晋太郎の熱演は実に称賛するものであります。
閑話休題。
久し振りに「きつねのはなし」のように怪談めいたエピソードが語られたり「太陽の塔」のキャラである心優しき巨人こと高藪氏が登場したり「夜は短し歩けよ乙女」で語られたゲリラ演劇「偏屈王」の裏事情が明かされるなど昔から知っている向きにはニヤリとさせられる構成要素もこの筒の中で回っている。そんなわけで個人的には懐かしい空気感が満点な「宵山劇場」の章が好きだ。最近とみに薄まっているもりみー特有の男臭さが存分に味わえたり、山田川さんのサディスティックな意志貫徹ぶりが楽しかったりする。
あー、おれ森見キャラに時折見られる暴力的な女子が好きなんだなw